日本の高スキルIT技術者不足が深刻…日本でできない開発を海外の個人が1万円で開発
英語の壁
実は私はこのプログラムを開発するためにその1カ月前から動いていました。最初は知り合いに声をかけてみましたが、できないと言われるか、ものすごく高額の見積もりをもらうかのどちらかでした。そこで私は日本のクラウドソーシング会社で募集をかけてみました。10万円の料金設定で1週間募集しましたが応募はゼロ、問い合わせすらなかったのです。
そんなに難しいプログラムではないはずなのにおかしな話だなと私は思いました。理由を探るために、私はAIのサービスを提供している大手IT企業が公開しているリソースドキュメントを読んでみることにしました。すると、理由はすぐにわかりました。ほとんどすべての文書が英語だったのです。ほとんど、と今言いましたけれども、入り口の1ページ目か2ページ目までは確かに日本語で書かれています。しかし階層を1つか2つ掘り下げていくと、すべて英語なのです。
これで理由がはっきりしました。私の知り合いや、日本のクラウドソーシング会社に登録しているエンジニアは、英語のリソースが読めないか、まだ読んでなかったかどちらかだったのです。
IT関係の最新技術の多くはアメリカの会社が提供しています。ですからドキュメントはすべて英語です。英語がわからなければ、その技術の進展についていくことは不可能です。ですから私は、英語を難なく使えるエンジニアと仕事をするために、海外のクラウドソーシング会社を使うことにしたのです。
日本にはIT技術者が少ないといわれています。腕があって英語もわかる技術者は高単価でしかも引っ張りだこです。その結果、日本ではちょっとでも新しい情報システムの開発をしようとすると、驚くような見積もりが出てくるのは、これが原因です。
また、日本の会社と仕事をすると非常にリードタイムがかかります。先ほど例に挙げた仕事では、まずご挨拶と称して顔合わせするところから始まります。今日すぐに顔合わせというわけにはいきませんから、そのスケジュール調整だけで1週間かかってしまいます。海外のフリーランスのエンジニアとの仕事ならば、2日で支払いまで完了してしまうのとは対照的です。
海外の高スキル人材の力を借りる
自分たちのビジネスのことを考えるのであれば、人件費が相対的に安い国の英語ができる人材を探すのが最も合理的です。事実、私の仲間の会社では、海外のクラウドソーシング会社を介して出会ったウクライナ人に小さな仕事を頼むことから始め、今ではそのウクライナ人が100人を束ねて友人の会社の情報システムを開発・運用しています。どのような業種業態であろうとも、今のビジネスにはITの優劣が業績を大きく左右します。そして使う技術が最先端であればあるほど、競合に差をつけることができます。
この点で日本のIT産業は非常に競争力が弱いと言わざるを得ません。私個人の経験からそれが言えるだけでなく、調査でもそれが明らかになっています。
アメリカ、EU、日本の3地域について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算したOECDの調査があります。この調査では、労働市場の人材を、高スキル人材、中スキルの非定型業務を担う人材、中スキルの定型業務を担う人材、低スキル人材の4つに分類しています。このスキル別人材の数を、3つの地域で比較すると、その差は顕著です。高スキル人材の増加率が、アメリカで7%、EUで6%弱増加しているのに対し、日本はたったの1%です。その一方、中スキルの定型業務を担う人材は、アメリカで10%弱、EUで9%減っているのに対し、日本では4%ちょっとしか減っていません。
アメリカやEUの企業は、2002年以降、中スキルの定型業務の労働者を減らしてきました。その一方で、高スキル人材を自社内で養成したり、新規雇用を増やしたりするなどして、高スキル人材の獲得に努めてきました。
一方、日本では本来は機械化やIT化を進めて減らすことができたはずの中スキルの定型業務人材も、社内で温存しているということです。加えて日本企業は高スキル人材の獲得や養成にほとんど無関心だったことが数字からは読み取れます。アベノミクスが始まってからも平均所得が下がり続けている原因の一つは、ここにもあるはずです。
もし本稿の読者が働く個人であれば、年齢にかかわらず高スキル人材として雇用されるための能力を再構築する必要があるでしょう。また経営者の方であれば、ルーティン業務の機械化・IT化を進めると同時に、自社の人材の再教育や、外部からの獲得によって、社内の高スキル人材の割合を増やしていくことを考えなければなりません。そしてその過程で会社の競争力を維持していくためには、クラウドソーシングの利用も含めた海外の高スキル人材の力を借りることに、大真面目に取り組む必要があると考えます。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)