カカクコムが運営する「食べログ」は、外食先の店舗を選ぶ際のグルメ口コミサイトとして多くのユーザーから重宝されている。その食べログをめぐって、一部飲食チェーン店に対して“チェーン店ディスカウント”と呼ばれる、点数を不当に引き下げるアルゴリズムを設定・運用しているのではないかという指摘が物議を醸している。
株式会社韓流村は自社運営の焼肉チェーン店、韓国料理チェーン店が不当に点数を下げられたとして、カカクコムに対し損害賠償を求める訴訟を提起し、全面的に争っている状態である。
そして4月4日、韓流村は食べログへの疑惑を解明するため、「食べログ被害者の会」を設立。チェーン店ディスカウントによる影響を受けたとされる全国約4000店にも上る飲食チェーン店に向け、集団で法的措置を行うことを提案したのである。
食べログほどの巨大口コミサイトでの評価は、飲食店の集客に大きな影響を与えるだろう。そこで、今回は成蹊大学客員教授・ITジャーナリストの高橋暁子氏に、チェーン店ディスカウントをめぐる食べログと韓流村についての詳しい経緯、また今後の動向について話を聞いた。
食べログ内の点数はお店の売り上げに直結しかねない
まず、食べログ被害者の会が設立された経緯について高橋氏はいう。
「まず韓流村をはじめとする飲食チェーン店が、食べログ内の点数が急激に下がったことに気づきました。たとえば、韓流村の場合、最大0.45点、平均0.2点とかなり大幅に下がっていました。その後、複数のチェーン店の評価履歴を調査したところ、特定のチェーン店にのみ引き下げが集中しているというのが韓流村側の主張です。
この一連の流れがカカクコムによる恣意的な行為だと考えた韓流村は、2020年5月にカカクコムに対し訴訟を提起。しかし、このときの裁判が納得のいくものではなかったので、他のチェーン店を加えた『食べログ被害者の会』を立ち上げることになったのです」
食べログの評価は、お店の売り上げにかなり影響を与えるという。
「飲食店を経営されている方のお話によると、食べログでの点数によって収益にかなり差が出るとのことです。点数次第で食べログの検索結果上位に表示されない、されても数字が低くて来店されないなどの理由により、客が離れてしまうのだと考えられます」(同)
なお、22年1月の裁判でチェーン店側に対し、アルゴリズムの計算式が公開されたものの、一般公開はされていない。詳細は判明していないが、チェーン店ディスカウントの運用が事実であれば、食べログは独占禁止法に違反するおそれがあるという。
「公正取引委員会は、食べログの取り組みが独占禁止法における“優越的地位の濫用”(優越的な地位にいる者が取引相手の自由な判断を阻害し、経済的な損失を負わせる行為)に当たるおそれがあるとの見解を示しています。飲食店側は点数評価を上げるために食べログの有料会員になることもあり、それが食べログ内の評価指標としても機能しているため、点数評価が取引に該当すると公取委は指摘してるのです。
また突然のアルゴリズム変更によるチェーン店の点数下落も、食べログの影響力を考慮すれば不当な差別になり得るとの指摘もありました。これに対しカカクコム側は、他のプラットフォームに比べれば食べログは絶対的な替えの効かない存在ではないと反論し、自らの立場を釈明。ですが公取委は、原告側の売上高の3割は現在も食べログ経由の客によるものであり、取引依存度も重要なポイントであり、事前通告無しでの不意打ちのアルゴリズム変更も“優越的地位の濫用”として主張を変えませんでした」(同)
裁判の判決はケースバイケース
また食べログ自体の口コミや評価の不透明性も、今回の騒動の一端であるという。
「食べログでは以前から、広告代理店や営業会社などの外部業者による点数操作疑惑が目立っていました。点数を上げるために口コミでステマ投稿をした話や、飲食店に向けて“食べログ内の点数を上げませんか”という営業電話がかかってきた話をよく聞きます。しかし食べログは点数操作はないの一点張りで実態について十分に調査、結果の公表をしておらず、結果的に食べログ自体への信頼が薄れているという土壌が、今回の訴訟に拍車をかけた可能性もあるのかもしれません」(同)
チェーン店と食べログの法的な争いはこれからといったところだが、仮に「食べログ被害者の会」側の訴えが認められた場合、カカクコムにはどのような処罰が下されるのだろうか。
「独禁法違反の罰則としては、懲役や罰金などの刑事罰を受ける可能性があります。また、公正で自由な競争秩序を回復するために違反行為を排除させる、排除措置命令という行政処分が下されるケースも考えられるでしょう。ですから、今回争点になっているチェーン店ディスカウントが、問題のある形で実際に運用されていたと判決が出れば、チェーン店ディスカウントと呼ばれるものは今後現れなくなるかもしれません」(同)
とはいえ高橋氏によると、食べログが敗訴したとしてもサイト内の仕組みが大きく変わったり、食べログがなくなったりといった事態にまで発展することは、考えづらいのだという。
「“食べログの敗訴”という前例があると、他の飲食チェーン店からの訴訟や調査を求める声が出てくることは予想できます。そして、訴えが通ればサイトの改革を検討、実行しなければならないでしょう。しかし、そもそも食べログというサービス自体が消費者に支持されていることは事実です。
食べログも今回の一件を受けて他の飲食店からの訴訟対象にはなるかもしれませんが、あくまでチェーン店ディスカウントのような不公平な操作を禁じられる可能性があるだけで、サービス自体の支持が完全に失われるとは思えません」(同)
では我々ユーザーが食べログを利用する際に、チェーン店ディスカウントを見極める術はあるのだろうか。
「気になったお店は複数のグルメサイトと比較して調べたり、また点数そのものよりレビューの内容を見たりするのがいいのではないでしょうか。自分の好みかどうかも重要ですが、数字だけを見るのではなく“実際の評価が高いのか”を主眼にしてレビューなども確認すると、良いお店なのか判断できるようになると思います」(同)
食べログはユーザーにとっては便利なサービスである半面、飲食店にとってはその評価は死活問題に値する。今後の裁判がどのような動向を見せていくかはまだわからないが、双方納得がいく解決策を模索してもらいたいものだ。
(取材・文=文月/A4studio)