ウェブ、IT業界に精通し、数多くのビジネスの立ち上げを知るシリアルアントレプレナー・小川浩氏。先見の明を持つと各界から注目される小川氏がIT、ベンチャー、そしてビジネスの新しい時代を独自の切り口で解説する。
早いもので2014年もすでに一月が終わってしまった。つまり年間日数の8.5%を消費したことになる。では残り91.5%の時間の中で、どんなビジネスモデルが今年のIT業界を席巻するのだろうか?
前回の記事『普及前夜のウェアラブル端末、グーグルとアップルに挑む日系ベンチャーの勝算は?』で紹介したのは、ウェアラブルコンピューターだった。私が考える台風の目は、次の2つだ。
・モノのインターネット
・オルタナティブソーシャルサービス
●巨大な“ビッグデータ”を生むIoT
まずモノのインターネットだが、これは英語ではずばり「Internet of Things」という。略してIoTという呼び方も浸透してきたが、人間がSNSやブログなどを介して発信する情報ではなく、クルマや家電、交通情報、家の電力消費量など、ありとあらゆるモノのステイタスをデータ化してネット上に置くことを指す。少し前はM2M(Machine to Machine/機械と機械が通信ネットワークを介して互いに情報をやり取りすることにより、自律的に高度な制御や動作を行うこと)という用語が認知を得ていたが、今では(電気的な)機械から一般的なモノへと対象が拡大し、さらにそれらの情報をモノ同士での通信から人間が中に入ってコミュニケーションするというところまで意味が広がったことで、IoTという呼び方が普及してきている。
例えば、自宅の電灯を消し忘れて外出した場合に、自発的に家人のスマートフォン(スマホ)に通知をするようなスマートハウスであったり、交通情報を信号機や、各自動車からの自律的な情報発信によって有機的に処理していくような使い道がある。ありとあらゆるモノにIPアドレスを付与して、そのモノの状態はもちろん、自他の関係性を含んだデータをネット上で共有していく。そうして共有されたビッグデータの使い道は無限だ。
グーグルが買収して有名になった家庭用ハードウェアメーカー・ネストが製造する「ネスト・サーモスタット」は、物理的には単なる温度調整装置だが、ネットに接続された人工知能を持ち、家の中の温度調節を常に最適化すると同時に、その情報をスマホやPCでネットを通じてシェアできる。サーモスタットはさらに何か異常があれば、スマホで外出先からでも制御できる。これもまたIoTのひとつのかたちであり、小さなデバイスでスマートハウス化を実現する効率的な手段である。情報は数値化され、場合によってはテキスト化される。そうなればグーグルは生活空間の状態までも検索できるようになるわけだ。
つまり、モノのインターネットは、より巨大なビッグデータを生み、さらにそのビッグデータを解析する技術を持つグーグルなどの企業にとっての、新たなフロンティアになるのである。今後は、家の中だけでなく自動車の中や、人体、思考に至るすべての情報がネット化されていくだろう。今年は、IoT元年といえる年になるはずだ。
●脱Facebookに大きな市場
次の台風の目は、オルタナティブソーシャルだ。これは何の代替(オルタナティブ)かというと、ずばりFacebookである。Facebookは大学生のSNSの地位に甘んじることなく、世界12億人をつなぐ巨大なネットワークとなった。しかし、世代や性差を問わない網羅的なネットワークになってしまったがゆえに、背徳的な刺激を好む若者にとっては窮屈すぎる空間になった。その結果、若者同士で後腐れなく“恥ずかしい”写真でもシェアできるSnapchatや、仲間とだけこっそりコミュニケーションできるWhatsAppなどのメッセージングツールが台頭してきた。これらは、まさしく若者にとってのオルタナティブソーシャルである。