ウェブ、IT業界に精通し、数多くのビジネスの立ち上げを知るシリアルアントレプレナー・小川浩氏。先見の明を持つと各界から注目される小川氏がIT、ベンチャー、そしてビジネスの新しい時代を独自の切り口で解説する。
2020年に東京でオリンピックが開催されることが決まり、多くのスタートアップが2020年をひとつの区切りとして事業計画を見直し始めているような気がする。単純だが、人間の心理とはそういうものだ。
筆者がマレーシアに住んでいたのは1994年から2000年だが、その頃のマレーシアには「WAWASAN(英語ではvision)2020」といって、2020年までに先進国入りするという目標を意味する標語の看板が街のいたるところに飾ってあった。最近マレーシアを訪れていないので、今どうなっているのかは知らないが、とにかくかけ声だけでなく、相当に具体的な政策に落とし込んだマニフェストであったと記憶している。
いまや私たちにも、同じように2020年までに何事かを成す、という目標ができたのではないだろうか。その意味では、失脚した猪瀬直樹・元東京都知事の置き土産は決して小さくないといえる。
さて、人生を賭けた勝負に出るなら、なるべく大きな市場でのゲームを選ぶべきである。パチンコで大金持ちにはなれないが、ラスベガスでカジノに興じれば、それなりのチャンスがあるかもしれないのと同じだ。だから、これからの数年で成長するだろうと思われる市場を年頭にお知らせするのは、読者にとって悪い情報ではあるまい。
●ウェアラブルコンピューティング
まず、最も成長が期待される分野は、ウェアラブル端末だ。ネット業界の君主であるグーグルのGoogle Glassに挑むドン・キホーテ、井口尊仁CEO率いるテレパシーという図式に、2014年にはいよいよアップルが乗り込んでくる。
Google GlassはAndroidで動く自律的なデバイスだが、テレパシーのTelepathy Oneはスマートフォンに接続して使う他律的デバイスだ。当然だが、アップルがリリースするとすれば、iOSによる自律的デバイスになる。つまり、OSを擁する大企業であれば自律的デバイス、スタートアップなら他律的デバイスか、Androidを使った自律的デバイスを狙うという図式が自動的に成立する。
ウェアラブルコンピューティングには眼鏡型、腕時計型、人体への埋め込み型など、さまざまな形が想定されるが、眼鏡型は日常的な利用へとつながることは考えづらい。ただし、警官や守衛、イベント内での案内などのプロフェッショナルツールとしての市場は小さくない。つまりオリンピック会場におけるガイド用デバイスとしての役割は容易に想像できるから、2020年までの成長というのであれば、このオリンピック会場やエリアでの多言語での案内や、同時に複数の会場での情報を閲覧できるというような利用方法にフォーカスする企業が多く出ても不思議ではない。その意味では、Telepathy Oneのように消費者が持つ多様なスマートフォンとの連携を前提としたデバイスを量産するという勝負は成り立つのではないだろうか。
(文=小川浩/シリアルアントレプレナー)