インサイダー取引といえば2006年の「村上ファンド事件」がまず思い浮かぶが、昨年6月に上告が棄却され、村上世彰被告に対する懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円という東京高裁判決が確定している。追徴金が巨額になったのは、インサイダー取引が実刑判決を免れても「割に合わない犯罪」と思わせるためだともいわれている。
しかし、役人や投資ファンド社長のような「小悪党」を裁判にかけて追徴金をふんだくる前に、金融庁も証券取引等監視委員会もやるべきことをやっていないのではないか、という声も多い。事実、限りなく疑わしい「巨悪」がインサイダー取引で強制調査や刑事告発を受けることもなく、いまだに放置されている。
それは、「事前需要調査(プレ・ヒアリング)」という名目で流された上場企業の増資情報を、大口の機関投資家などが利用して、公募増資が公表される前に、カラ売りをかけて儲けたのではないか、という疑惑である。
プレ・ヒアリングとは、増資を検討中の上場企業の幹事証券会社が、増資した場合に市場での新株の消化がスムーズに進むかどうか、事前に海外の証券会社や大口の機関投資家(生命保険など)にリサーチをかけることである。具体的には、幹事証券会社の担当者が機関投資家などに対し、「もし今A社が◯円の増資をした場合、お引き受けいただく可能性はありますか?」などと質問をし、ヒアリングをしていく。よってリサーチを受けた投資家は、A社が、いつごろ、どれくらいの規模の増資を計画しているかという未公開情報を、入手することになる。その際、法令に基づき、証券会社と大口投資家の間では、「情報を利用した取引をしない」という守秘義務の文書を取り交わすが、それが守られていないのだ。その疑いの目は主に外資系証券会社に向けられている。