彼らの手口はこうだ。バスケットボールの試合で、わざとシュートを外して勝敗を操作し、事前に賭けていた違法スポーツ賭博で利益を得ていたというもの。その中には大学時代からのスター選手でプロバスケットボールリーグ(KBL)のオールスターMVPに2度輝いたキム・ソンヒョン(SKナイツ)や、2012年KBL新人王で韓国代表でもあるオ・セグン(KGC人参公社)なども含まれており、スポーツ界は衝撃を隠せないでいる。
もっとも、韓国スポーツ界が八百長で揺れるのは、今回が初めてではない。韓国では1982年に野球、83年にサッカーのKリーグ(現Kリーグクラシック)、97年にKBL、05年にはバレーボールのVリーグが発足しているが、これらいずれのプロスポーツも過去に八百長事件を起こしている。
例えば、11年5月にはKリーグで八百長事件が発覚。それもチェ・ソング(元柏レイソル)やキム・ドンヒョン(元大分トリニータ)など、代表韓国経験者を含む47名が起訴され、現役選手1名、元選手1名、元監督1名が自殺する一大スキャンダルに発展している。
12年2月にはVリーグで八百長が発覚し、現役・引退選手16名が追放された。その中には、男子韓国代表のパク・ジュンボン、女子韓国代表のチョン・インジョンも含まれていた。
同年には、プロ野球でも八百長疑惑が取り沙汰され、警察の捜査の結果、人気球団・LGツインズの投手だったパク・ヒョンジュンとキム・ソンヒョンが違法スポーツ賭博の八百長に加担していたことが明るみになり、それぞれ懲役6カ月・執行猶予2年の判決を宣告された。
13 年3月にはKBLの東部プロミの監督だったカン・ドンヒがブローカーから4700万ウォン(当時約415万円)を受け取った見返りに、主力ではなく控え選手を計4試合に投入して故意に敗れるよう八百長を犯し、懲役10カ月の刑に処されている。今年5月には、KGC人参公社のチョン・チャンジン監督が違法スポーツ賭博に手を染め、自身が賭けた試合後半に控え選手を投入して故意に敗戦を誘導したとして検挙されている。
韓国は日本以上に職業スポーツが盛んな“プロスポーツ大国”だが、その一方で“八百長天国”と皮肉られても仕方がない有様なのだ。
八百長が蔓延するワケ
では、なぜ韓国プロスポーツ界で八百長が絶えないのか。その理由はさまざまだろうが、大きな要因のひとつとして挙げられるのは、プロスポーツが純粋なスポーツ興行としてだけではなく、ギャンブルの対象として定着していまっていることではないだろうか。
韓国にも日本のスポーツ振興投票(toto)同様に、合法的なスポーツくじ(体育振興投票券)があり、その事業内容も似ているが大きく異なる点がある。「スポーツ・トト」と呼ばれる韓国のスポーツくじは、Kリーグに限らずプロ野球、KBL、Vリーグ、韓国相撲、ゴルフなど多様な対象競技になっており(海外の公式戦も対象になる場合もある)、広く普及している。
そのため、インターネット上には不法スポーツ賭博サイトが無数にある。正確な数字は定かではないが、その数、実に500以上といわれている。韓国の刑事政策研究所の資料によれば、13年度の不法スポーツ賭博市場の規模は31兆1000億ウォン(約3兆1100億円)もあり、その額は前出した「スポーツ・トト」の売り上げの約3兆3000億ウォン(約3300億円)をはるかに凌ぐほどだといわれているのだ。
しかも、ほとんどの違法スポーツ賭博サイトが、携帯電話番号と送入金可能な銀行口座を登録すれば誰でも会員登録できる手軽な仕組み。つまり、成人認証もなく誰でも気軽にできるため、そんな罠にはまって賭博中毒になってしまう未成年も増えている。
前出した過去の八百長事件は、この違法スポーツ賭博が引き金になっている。違法スポーツ賭博にハマり、うま味を覚えた選手や監督たちが、さらに儲けようと八百長に手を染めるわけだ。今回、検挙されたキム・ソンヒョンとオ・セグンは、大学時代から違法スポーツ賭博をしていたが、一方でキム・ソンヒョンは違法スポーツ賭博サイト撲滅キャンペーンのテレビCMにも出演していた。
韓国では合法・非合法にかかわらず、未成年はもちろん現役選手のスポーツ・ベッティングは「国民体育振興法」という法律によって禁じられている。それでも違法スポーツ賭博に手を伸ばし、自らの利益のために八百長を犯すとはいかがなものか。あるKリーガーは、次のように告白する。
「先輩や後輩、知人から『不法スポーツ賭博よりも確実な投資方法がある。もっと大きな金を稼げるぞ』と、八百長を誘われる。断ると、さらに高い金額を提示され、『すでに多くのチームメイトが協力意思を示しているぞ』と促してくる。だから、チームメイトたちも信じられなくなる」
八百長スャンダルが後を絶たない韓国プロスポーツ界。日本でも新国立競技場建設の財源確保のためにtotoの対象にプロ野球を加えることが検討されていたが、遠藤利明・五輪担当大臣は6月30日、これを見送る方針だと発表した。韓国の事例を踏まえると、今後も対象には加えないほうがいいだろう。
(文=慎武宏)