韓国のインターネット上では、全額支給の判決を下した岡部喜代子裁判長を「韓国に招待したい」「韓国の判事よりも判事らしい」「国家ではなく、人権の生命尊重権を重視する裁判官」などと持ち上げ、韓国政府も「最高裁の判決を歓迎する」と好意的な見解を述べた。
そもそも今回の判決は、ある韓国人被爆者が起こした訴訟を発端としている。イ・ホンヒョン氏(69歳)と、被爆者遺族2人が2011年に大阪府を相手に起こした訴訟だ。イ氏は、三菱造船所で働いていた“強制徴用”労働者の息子で、広島に原子爆弾が投下された当時、母親の胎内にいたという。終戦後、韓国に帰国したイ氏は、高血圧や慢性心不全に悩まされ、37歳のときに正式に被爆者としての診断を受けた。彼は08年に日本で治療を受けたが、日本人と韓国人の被爆者には医療支援における格差があることを知り、訴訟に踏み切った。イ氏が大阪府に請求したのは、韓国で使った医療費2700万ウォン(約270万円)だ。
イ氏が訴訟を起こした背景には、韓国政府の“ほったらかし”があったと考えられる。というのも、最高裁で判決が出た9月8日にも、韓国人被爆者たちは韓国政府相手に抗議活動を行っているからだ。その日、韓国人被爆者たちは国会前に集い記者会見を開いた。参加者たちは「韓国は被爆者が世界で2番目に多い国。それなのに70年の歳月が流れても韓国人被爆者を支援する法案ひとつないのが現実」と声を上げた。韓国原爆被害者協会のソン・ナクク会長も、「病気や老衰で歴史の証人たる被爆者がだんだん減っているだけに、早急な支援が行われなければならない」と切実に求めていただけに、「最高裁の判決を歓迎する」と発表した韓国政府の厚顔ぶりがうかがえる。
今後は、医療費を支払う対象や範囲がポイントとなりそうだが、そこは変わり身の早い韓国。ある時事評論家はラジオで、こんな発言をしている。
「さらに深刻なのは、原爆被害が継承されるという点です。原爆被害者1世、2世だけでなく、3世、4世と続きます。現在、ひ孫まで被害が現れているというのが原爆被害者協会の話で、3世と4世合わせて2~3万人いるそうです。がんや脳疾患、ダウン症候群などで後遺症を患っているわけです。ところが、彼らは依然として被害者として認められていないのが現状です」
最近では、別の問題とリンクさせて声を上げるネット民も続出している韓国。最高裁の真摯な判決が新たな火種とならないことを願うばかりだ。
(文=編集部)