このお盆、NHKの昭和天皇に関するスクープ報道のしつこさに辟易した。要は「昭和天皇は平和を愛する立派なお方でした」というキャンペーンか。だが同じNHKのスクープでも筆者が関心を持ったのは、シベリア抑留での遺骨の取り違えだ。
8月23日に開かれた、千鳥ヶ淵戦没者墓苑での追悼会では厚労省幹部が根元匠厚労相の挨拶を代読したが、謝罪はなかった。抑留者代表の新関省二さん(93)は「襟を正すとか緊張感とかいうレベルの話ではない。根本的に(遺骨収集業)の進め方を再検討すべきだ」と怒り、専門委員の一人は「間違いが指摘されても一顧だにしない。検証結果が出るまで遺骨収集事業を中断すべきだ」と厳しく指摘した。
経緯をみてみよう。7月29日、NHKは、シベリアに抑留されて現地で死亡した日本人の遺骨として、厚労省が2014年に持ち帰った16体が、同省委託の専門委員会によるDNA鑑定で日本人ではないと判明していたことを報じた。同省によると、東シベリアのザバイカル地方で日本人が埋葬されているとみられた、ロシア人などとの共同墓地で遺骨を収拾し、歯だけを持ち帰り、残りは焼却処分したという。NHKの取材では、現地の村長が登場したが、かつて老人から間接的に埋葬場所を聞いていただけで記憶も曖昧だった。
厚労省は昨年8月に委員会報告を受けていたが公表しなかった。報道に慌て「ロシア側と協議してから公表するつもりだったがスピード感が足りなかった」と釈明。菅義偉官房長官も「厚労省によると、遺骨の出身地の特定は遺骨収集の相手国と協議のうえで決定されるべきもので、DNA鑑定の結果の報告があった時点では公表せず、結果を踏まえて相手国と協議したうえで公表するということだった」と弁解した。
専門委員の浜井和史帝京大学准教授(日本近現代史)は筆者の取材依頼には応じなかったが、番組では「過去にも日本人でない遺骨を持ち帰った可能性もある」と話している。浜井氏は「遺骨を日本に持ち帰ることが中心になってしまっていたなかで、一人ひとりの遺骨が誰のものなのか確認する厳密な調査がなされなかった」と指摘する。収集の際、日本から鑑定人は同行していない。