さらにNHKは8月5日、厚労省が2000年にイルクーツク州で収集した70人分のDNA鑑定をした専門家が、「日本人ではないのではないか」などと報告していたことを報じた。同省幹部も「全体が極めて怪しいというか、日本人の埋葬地の可能性が極めて低い」などと認めていた。NHKは2017年12月の議事録を入手し、鑑定をした専門家が「70柱分ぐらいのデータを全部出しているが、日本人ではないのではないかという雰囲気がある。(DNAの)ミトコンドリアが一見して日本人ではない方が多いと思う」と指摘し、別の専門家も「日本人がほとんどいないような感じがする。このなかで日本人らしきミトコンドリア配列を探せというほうが難しい」と話したことを明かした。
専門家が取り違えた遺骨をロシア側に返すべきだとを主張する同省幹部は、「元にお返しするのが原則になる」「どういう人種の方かを究明するのはこの会議の役割ではなく、あくまで日本人戦没者と遺族との親族関係を確認するのが目的だ」などと発言している。
厚労省、成果は二の次
根本匠厚労相は8月8日、「内部検討の段階だったため公表していなかった。放置していたわけではない。今後、1カ月をめどに検証作業を進めるよう指示した」と述べた。
厚労省は筆者の取材に「16体のケースは、持ち帰る2年前に現地調査に行き、その時は持ち帰らず、現地の鑑定を待った。日本からの鑑定者が同行するのは平成30年からで、基本的にロシア側の専門機関に鑑定も依頼していた」と答えていた。まさに庁内で「おかしい」という声が高まり、ロシア側の鑑定に不信を持ったからだろう。
財団法人・全国強制抑留者協会(東京都千代田区)の吉田一則事務局長は「通常、最初の現地調査では遺骨は持ち帰らず、日本の鑑定者を連れて再訪して確認後に持ち帰る。今回どうだったのか。今回の間違いを厚労省が明らかにしなかったことは大きな疑問」とする。
思い出すことがある。1990年初夏、サハリン残留邦人に関する戦後初の厚生省(当時)の調査に筆者は同行した。ところが調査団は、日本の肉親との手がかりを求めて必死に集まった残留者たちの写真をまったく撮ろうとしない。写真を日本に持ち帰れば最大の手がかりになるはずだ。担当者に筆者が「なぜ写真を撮らないのですか」と迫ると「マスコミさんが撮っていらっしゃいますから」とごまかしたが、メディアが報じるのは一部だ。厚生省にとっては成果がなくても、調査に行ったという事実が報じられればよかったのだ。
シベリアの話に戻すと、厚労省は「現地から遺骨さえ持って帰ればいい」という姿勢だった。戦没者の遺骨収集では、フィリピンから持ち帰った遺骨が、日本人ではなく現地住民由来と判明し、9年間事業が中断している。これは遺骨で商売しようとした現地人が絡んだようだが、凍土シベリアはどうだったのか。徹底調査が待たれる。
(文・写真=粟野仁雄/ジャーナリスト)