筆者が若かりし頃、「協力隊」といえば、外務省所管の独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施する「青年海外協力隊」だった。新興国などに赴き、現地の人々に役立つ技術や知識を教えるのが主な任務である。恥ずかしながら、筆者も約2年間、青年海外協力隊員として任務に就いていた時期がある。
当時、青年海外協力隊で得られる報酬は少なく(とはいえ、現地ではかなりの金額になる)、日本に帰ってきた後の保障もない。今思えば、青年期特有の無謀さがあったからこそ、参加できたのかもしれない。
私事で紙幅を費やしてしまったが、最近では「協力隊」といえば、総務省所管の「地域おこし協力隊」を指すことが多いという。過疎地などに生活拠点を移して協力活動を行うものだが、日本の過疎地は新興国並みの状況になったということなのだろうか。そして、隊員たちは任務終了後、どうなるのだろうか。
地域おこし協力隊は、都市部から過疎地などに移住した人を対象に、地方公共団体が「隊員」として業務を委嘱する制度である。隊員は一定期間(おおむね1年以上3年以下)、地域に居住し、地域ブランドや地場産品の開発、販売、PRなど地域おこしの支援や、農業、林業、水産業などへの従事、住民の生活支援などの「地域協力活動」を行いながら、地域への定住・定着を図る。
この活動の実施主体は各地方公共団体だが、主管は総務省で、財政支援が行われる仕組みとなっている。隊員を募集する地方公共団体には、募集などの経費として上限200万円、隊員には活動経費として1人当たり上限400万円が支給される。
400万円の内訳は、報償金と必要経費が200万円ずつとなっており、事実上、これが隊員の給与ということになる。さらに、任期最終年あるいは翌年に起業する隊員には、1人当たり上限100万円の起業資金が支給される。
同制度は2009年度の開始後、隊員が増加している。09年度の89名(実施自治体数は31)から、10年度257名(同90)、11年度413名(同147)、12年度617名(同207)、13年度978名(同318)、14年度1511名(同444)となっており、総務省は16年度までに隊員数3000名を目標に掲げている。
過疎地に移住する隊員の実像とは、どのようなものだろうか。「田舎暮らし」といえば、リタイアした高齢者層の専売特許と思われがちだが、隊員の約8割は20代および30代となっている。
ボランティア精神が強いのか、田舎暮らしに憧れがあるのか、都会暮らしに疲れたのか。また、就職難で地方での就業を狙ったのか。理由はさまざまだろうが、若者層が率先して過疎地に移り住んでいるのだ。
隊員の4割が女性、6割が任期後も定住
さらに驚くのが、隊員の約4割が女性ということだ。つまり、20~30代の女性が全体の3割以上を占めていることになる。よく、「地方は嫁不足で悩んでいる」といった話を聞くだけに、驚きの事実だ。
また、任期を終えた隊員の約6割が、同じ地域に定住するという。そして、定住者の約4割は女性だ。20~30代の若い女性が、過疎地に定住するのである。この傾向を、どのように説明すればいいのだろうか。
定住する人たちは、5割弱がその地域で就業し、2割弱が就農、同じく2割弱が起業する。過疎地に住み、過疎地で職に就き、過疎地でこれからの人生を送るということだ。
安倍晋三政権が進める「地方創生」では、高齢者の地方移住を勧めている。しかし、発想を転換して、受け入れ態勢を十分に整えた上で、若者に移住を勧めてみてはどうだろうか。意外な成果が出るかもしれない。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)