もうひとつショッキングなのは、規制逃れが、排ガス基準が厳しいことで有名なカリフォルニア州など米市場だけを狙い撃ちしたものではなかったことだ。この事実は、VW自身が2008年以降世界中で販売した1100万台に問題がある可能性を認めたことから明らかになった。実際、VWの本国ドイツでは、ドブリント運輸大臣が該当する可能性のある車両が約280万台あることを明らかにした。VWは日本で問題の車両を販売していないものの、個人や業者の並行輸入で200台を超す該当車両が日本にも持ち込まれているという。
耳を疑うほどのVWの対応
疑惑の目が向けられてからのVWの対応も、耳を疑う内容だ。
ロイター通信によると、EPAとカリフォルニア州大気資源局(CARB)の問題提起に対して、VWは15カ月以上いい加減な釈明で誤魔化そうとした。あるときは、NGOの国際クリーン交通委員会(ICCT)を経由してCARBの調査を委託されたウエストバージニア大学(WVU)の研究者たちのテストのやり方に問題があると言い、またあるときは、路上走行時に排ガスの有害物質濃度が急上昇するのは調査対象になった車両に固有のエラー(誤作動もしくは不良品の意)だと主張したという。業を煮やしたEPAが、VWとアウディが来年発売する予定のディーゼル車の承認を保留すると圧力をかけたこともあった。
ロイターの取材に対してVW米法人の元幹部は、米法人でディーゼル車開発に関わった人間はいないし、「ソフトウエアの変更について何も知らない」と答えたという。真相は依然として藪の中だが、このコメントが事実ならば、不正な規制逃れのためのDefeat Deviceの組み込みなどは、ドイツ本国サイドで行われたと考えるべきかもしれない。世界中で販売された1100万台に問題があるとVWが認めているだけに、同社の中枢部に根深い病巣が存在する可能性がありそうだ。
この点に関連して独紙ビルトは9月27日、問題のソフトについて、VWの内部調査で部品メーカーのボッシュROBG.ULが供給したものだが、07年の段階で規制逃れに使うことは違法だと文書で指摘していたことがわかったと伝えた。また、独紙フランクフルター・アルゲマイネも同日、VWの監査役会に9月25日に提出された社内報告書に、11年の段階で社内から不正な排ガス規制逃れに関する警告があったと報じた。
問題の車種や年式、いまだ非公表
VWの誰が、いつ、どういう意図でDefeat Deviceの組み込みを決定したのか。これらの点は、今後の調査で徹底解明されなければならない。他の産業も含めたディーゼル技術の今後や、排ガス試験のあり方を左右しかねないので、そもそもVWに排ガス規制をパスする技術力があったのか、単に排ガスを浄化する触媒を搭載することに伴うコストの上昇や居住・ラゲージスペースの縮小を嫌っただけなのかは、重要な調査項目になるだろう。