独フォルクスワーゲン(VW)によるディーゼルエンジン車の不正な排ガス規制逃れが、同社の経営問題にとどまらず欧州経済の新たな火種になりかねない状況だ。VWは、最高経営責任者(CEO)のすげ替えで事態の早期収拾を試みたものの、思惑は外れた。欧米やアジアで、VW車の再調査や排ガス試験強化を打ち出す国が相次いでいる。また、スイスは先週末(9月25日)、各国の先頭を切って問題のディーゼル車の販売禁止に踏み切った。
規制逃れ車の排ガス対策コストや180億ドル(2兆1600億円)といわれる米当局の制裁金、米国で相次いでいる訴訟などの費用が、経営の屋台骨を揺るがすのは確実だ。ブランドの毀損に伴い、好調だった販売が一転して不振に陥る懸念もある。折からの中国経済危機で稼ぎ頭の中国市場が変調をきたしており、VWにとっては弱り目に祟り目だ。
ほんの数週間前まで、世界一の座をトヨタ自動車から奪うと目されていたVWが、いまや金融・資本市場から「ギリシア危機よりも深刻なリスク」とみられている。自動車業界では、早くもVWの北米からの撤退まで取り沙汰され始めた。世界の自動車市場の勢力図が大きく変わるだけでなく、地球温暖化対策の旗手のひとつと期待されていたディーゼル技術が失速する可能性も浮上している。
規制の40倍の有害物質
騒ぎの発端は9月18日。米環境保護局(EPA)が、VWに2008年以降に米国で販売した50万台弱のディーゼルエンジン車で排出基準の規制逃れを図った疑いがあると発表したことだ。EPAは、VWに大気浄化法違反で1台につき最大3万7500ドル(約450万円)、トータルで180億ドル以上の罰金を科す可能性があると明らかにした。
規制逃れの手口は、電子制御式の燃料噴射装置に「Defeat Device」(無効化機能)と呼ばれるソフトウエアを組み込み、ハンドル操作の有無などから、車が屋内のテストベッドで排ガス試験を受けているのか、路上を走行しているのかを判断。試験中ならばエンジンの出力を抑え、窒素酸化物など有害物質の排出を抑制するモードに切り替えて試験をパスする仕組みになっていた。路上走行モードの時は、排ガス低減機能を無効にすることで強大なパワーが得られるものの、米排ガス規制の10~40倍の有害物質を垂れ流す状態だった。規制逃れ車が排出する有害物質を合算すると、イギリス1国分に相当するとの試算もある。
過去数年間、米市場ではトヨタ自動車のブレーキやタカタのエアバッグなど、さまざまな欠陥とリコール対応がやり玉にあげられてきたが、いずれも過失だ。メーカーの想定外の使用状況で発生した問題であり、意図的に不正な規制逃れを狙ったものではない。それだけに、VWのケースは悪意に満ちた行為として、規制当局はもちろん世界中のユーザーが衝撃を受けた。