有害物質の排出を抑えた「クリーンディーゼル」は、欧州で販売される乗用車の5割を占め、日本でもマツダ主導で販売を伸ばして「第3のエコカー」として期待を集めてきた。そんな状況に、冷水を浴びせかねない事態となっている。
VW日本法人は9月26日付で、ホームページに「Volkswagenに関する報道について」と題する文書を掲載し、日本のユーザーに対して、問題の起きた車種であっても「その安全性、道路上の使用について問題はございません」「問題は、排出された汚染物質のみに関わっております」と釈明している。さらに、「現在、EU域内で販売されているEU6ディーゼルエンジンを搭載したフォルクスワーゲングループの新型車両は、法的要件と環境基準に適合しています」として、問題があるのは「(日本で販売していない)EA189タイプのディーゼルエンジンのみです」と述べている。
しかし、これまでのところ、VWは問題の車種や年式などを特定して公表することすらできていない。事はディ-ゼル技術全体への信頼を左右する話だ。VWの釈明を裏付ける調査の早期公表が待たれる。
世界経済の行方を左右しかねない
一方で、深刻な問題として懸念されているのが、今回の不祥事がVWの経営に与える影響だ。問題の車両について、すでに米EPAがリコールを指示しているのに続き、9月27日付でドイツ当局も10月7日までに問題車両の回収方法や時期を具体的に示すよう命じたという。
VWは、不正車両の是正対策費用として65億ユーロ(8700億円)の引当金を計上した。今年6月末時点のVWの自己資本は962億ユーロ(13兆円)なので、これぐらいの出費で済めば、目先の資金繰りには支障はないだろう。
しかし、すでに米EPAが最大で180億ドル(2兆1600億円)の罰金を科す構えをみせているほか、米国で相次いでいる民事訴訟費用、さらに刑事事件に発展した場合の費用を勘案すれば、引き当てた積立金では対応不能だ。
さらに厄介なのは、あのナチスドイツのヒトラー総統の「国民車構想」に基づいて、1937年に「フォルクス(国民の)+ワーゲン(自動車)」として設立された歴史をはね返し、いくつもの人気車種を世に送り出すことで積み上げてきた世界的なブランドイメージを失墜させたことだ。
日本経済新聞によると、英調査会社ブランド・ファイナンスの調べで、VWのブランド価値は9月24日時点で210億ドルと、不正発覚前に比べて100億ドルも毀損した。自動車メーカーではブランドイメージ首位のトヨタ(350億ドル)、2位の独BMW(331億ドル)に肉薄していたのが、大きく後退した。