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江川紹子の「事件ウオッチ」第136回

【『表現の不自由展』補助金不交付】前例のない決定はまるで懲罰? 政府は不交付を再考せよ

文=江川紹子/ジャーナリスト

「文化芸術基本法」の理念は


 この経緯を見ると、「不自由展」中止が決まる以前に、官邸を含め、政府は補助金交付の見直しに向けて動き始めたことがうかがえる。

 今回、荻生田文科相は不交付の理由について、「文化庁に申請があった内容通りの展示会が実現できてない」と述べた。柴山氏の初期の発言を聞くと、こういう理由で不交付にするのは、政府として当初からの方針だったのではないか。

 ただ、このような理由での全額不交付は、無理があると思う。

 なぜなら、補助金が採択されたあいちトリエンナーレ「国際現代美術展」には66のアーティストやグループが参加しており、「不自由展」はそのひとつにすぎないからだ。「不自由展」やその中止に抗議して自ら展示を取りやめた一部海外作家の作品を除き、他の展示やイベントは予定通りに行われている。

 検証委員会の中間報告でも、「情の時代」というテーマ設定やアートとジャーナリズムの融合などは先進的な取り組みであり、「芸術祭全体としては成功している」と高く評価している。来場者数も、開幕から53日目となる9月23日までに43万8953人となり、前回2016年の同時期の37万2240人を大きく超えた。

 展示中止となった企画展の分を減額するというならまだしも、全額不交付というのは、いかにもやり過ぎだ。

 しかも、文化庁の補助金審査などに関わった経験のある複数の専門家によると、多くのアーティストが関わる大規模なイベントの場合、出展作家や作品は、申請の時点で詳細が固まっていないことが多く、詳細を書かないのが普通。書かれていてもその通りに実施されないことは珍しくない、という。

 たとえば、20年ほどそうした審査に関わっている専門家の話。

「申請書と実施の内容に変更があるのはごく普通。参加アーティストや一つひとつの企画展の変更は、芸術祭をひとつの演劇とたとえると、キャスト変更のようなものです。事後的に、実施状況が申請書と変更がないかチェックして違いがあったら許さないというようなことをしたら、多くの催しの補助金は通らなくなる。変更があっても、通常は(申請者と文化庁が)互いに相談しながら対応していく。今回は、通常とは異なるパワーが働いているとしか思えない」

 今回の審査にも関わった別の専門家人もこう語る。

「後に変更になる場合もあり、作業が膨大になることから、申請時に詳細なものを出すことを前提にしていない。後出しじゃんけんのように、後から『この展示について詳細が書いていなかった』などと言い出せば、多くの催しが引っかかるだけではなく、その中から政府が気に入らないものは、なんでもつぶせてしまう。あいちトリエンナーレだけを対象にするのは、見せしめではないか」

 そのうえで、「今回の政府の対応は、文化庁が所管する文化芸術基本法に反している」と批判する。

 同法は、文化芸術に関する施策の理念と方向性を明らかにし、施策を総合的かつ計画的に推進するために2001年に制定された。2017年の改正の際には、前文に「文化芸術の礎たる表現の自由の重要性を深く認識し」という一節が、わざわざ書き込まれた。その趣旨に反するのではないか、という指摘だ。

 また、萩生田文科相は不交付を明らかにしたぶら下がり会見で、次のようにも述べた。

「愛知県側では4月の段階で、会場が混乱するのではと警察当局と相談していたらしいが、文化庁にはその内容が来ていなかった。少なくとも各方面に相談した段階で申請先の文化庁にも相談すべきだったのではないか」

「相談をされれば、運営方法などを一緒に協力することもできたかもしれません」

 これに対して、大村知事は同月29日のAbemaTVに出演して「そのような事実はない」と反論している。

「県の事務方が知ったのは5月のことで、通常の芸術祭のための警備等々の相談も常にあった。問題になった少女像について私が知ったのは6月で、直ちに津田芸術監督を通じ『これはなんとかならないか。写真、SNSの投稿は禁止できないか』と申し上げた。ただ、愛知県知事である私は公権力者。その私が会期前に『内容に色々問題があるから止めろ』と言えば、まさに検閲になってしまうので、強い要望、希望は申し上げたが、それ以上は『なんとか警備を』ということで協議をした」

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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