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江川紹子の「事件ウオッチ」第136回

【『表現の不自由展』補助金不交付】前例のない決定はまるで懲罰? 政府は不交付を再考せよ

文=江川紹子/ジャーナリスト
 昭和天皇関係の映像については、知事や事務方は開幕前には知らなかった。トリエンナーレの複数の関係者によれば、文化庁の問い合わせには、同庁にスタッフが赴くなどして説明してきた、という。

「我々は手順、手続きはしっかりと踏んできたと思っている」と大村知事は強調する。萩生田文科相は、事実を十分把握しないまま、全額不交付にゴーサインを出したのではないか。

「不自由展」中止が各地に与える影響


 検証委員会が中間報告を行い、大村知事が再開を目指すと明らかにした翌朝に不交付が明らかになった、というタイミングにも、意図的なものを感じざるを得ない。補助金の申請手続きを塩漬けにしておいて様子見をしていたが、再開する気なら全額不交付だ、という政府の意思が伝わってくる。手続き上の問題という説明は建前で、政府の価値観や主張と異なる展示をすることへの懲罰と受け止められても仕方がないだろう。

 検証委員会の中間報告は、「情の時代」というテーマ設定やアートとジャーナリズムの融合などの先進的な取り組みで、「芸術祭全体としては成功している」と評価。「不自由展」に企画としての趣旨は「妥当」とし、特に批判を浴びた少女像や昭和天皇の写真を含むコラージュ作品が燃やされている場面がある映像作品についても「展示すること自体に問題はない」と判断した。

 ただし、狭い場所に多くの作品を詰め込みすぎ、展示の場所や説明に難があり、予算と準備時間の不足から、説明役のガイドツアーをつけるといった工夫もないなど、「見せ方」について多くの問題を指摘。「不自由展」が中止になったのは「やむなし」としながら、電凸対策や「見せ方」の工夫などを行い次第、「すみやかに再開すべき」と提言した。

 検証委が特に気に掛けたのは、「不自由展」中止問題が、今後の全国各地で行われる芸術祭や美術館での企画展に与える影響だ。

 中止が決定されると、同トリエンナーレに出展している海外の作家たちが抗議声明を発表したり、自身の作品展示を取りやめたり、内容を変更する人たちも出た。日本国内では「安全上の配慮」という大村知事の説明が、さほど違和感なく受け止められていると思われるが、海外作家たちは中止を行政による「検閲」とみなしている。

 そのうえ、今回の補助金不交付問題。検証委員会の委員の一人で、世界の美術館や芸術祭事情に詳しい岩渕潤子氏は、次のように懸念を吐露する。

「ただでさえ展示一部閉鎖が再開できるかどうか、世界のアーティスト、メディアが注目するなか、国の助成機関が補助金を撤回したというニュースは、日本という国のイメージを著しく損なうでしょう。海外での『平和の少女像』設置に一部日本人が行った反対キャンペーンはことごとく失敗し、かえって日本のイメージを傷つける結果となっています。今回の補助金問題で、同じようなことが、より深刻なレベルで起こる可能性があります。『日本は自由な芸術表現のできる国ではない』と受け止め、日本での芸術祭などに招待されてもボイコットする、もしくは、『日本の芸術家と連帯するために権力による検閲行為を糾弾する』企画をわざわざ持ち込む。そういった、世界の全体主義国家で起きているような動きが日本においても加速するのではないでしょうか。今回のことで、日本は表現に関しては『先進国ではない』という認識が世界中に瞬く間に広がってしまうことが懸念されます」

 岩渕氏によれば、海外の国際的なイベントで、国家の介入などが原因で敬遠されるようになった例もある。

「しばらく前にシンガポールで国際映画祭が始まり、英語が通じる金融都市ということで期待が集まったものの、政府があまり口を出すので映画関係者からそっぽを向かれ、結局、アジアの映画のハブは香港と釜山で落ち着きました」(同)

 今後、日本の各地で行われる芸術祭や美術展はどうなるだろう。「国内外への戦略的広報を推進し、文化による『国家ブランディング』の強化」を図る目的の補助金をめぐって、日本の文化的なマイナスイメージが対外的に広がるのは、政府としても本意ではあるまい。

 補助金交付について、再考を強く求めたい。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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