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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」

フランスで1500人の死者を出した熱波が、今後10年で2回ほど日本を襲うとの予測

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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「Getty Images」より

「過去に例のない規模の自然災害」が日本列島に毎年襲来するようになって久しいです。今年も西日本、東日本がそれぞれ巨大な台風被害にみまわれました。特に東日本を襲った台風による千葉県の停電被害は長期間にわたり、非常に多くの人々の生活に影響をもたらしました。

 停電の原因は山間部の倒木にあるようです。首都圏の山間部に張り巡らされた送電網がこれだけの規模の台風に遭遇するのは初めてで、山間部で倒木が相次いだために送電網の回復には非常に長い時間がかかったのです。

 さて、このような「過去に例のない規模の自然災害」ですが、その到来自体は20年前から予測されていました。20世紀末から今世紀当初にかけて地球温暖化の議論が盛んになった頃の話です。

 当時、アル・ゴアの『不都合な真実』が世界的ベストセラーとなり、地球温室化効果への世間の注目が高まりました。日本ではスーパーコンピュータを組み合わせて稼動した地球シミュレータが、このまま地球の気温が上昇するとどのような未来になるかをシミュレーション予測し、その結果をメディアが繰り返し報道していました。

 私が不思議に感じるのは、2010年代に入って地球温暖化の影響と思われる自然災害が相次ぐようになった頃には、こういったシミュレーションがあまり報道されなくなったという点です。その理由としては、「気象災害が将来の予測であった頃は警鐘という意義があったけれど、予測通りの災害が起きるようになった今、その内容を報道することはいたずらに人心を不安にさせることになる」といった報道側の配慮があるように思います。ただ、最大の問題はそれくらいシミュレーションの予測が現実化して、世界規模で予測が当たっていることです。

 典型的なものは巨大台風の出現です。2005年に発生したハリケーン・カトリーナがかつてないスケールでアメリカ本土を直撃し、ニューオリンズ市を壊滅させたのが、『不都合な真実』が話題になった当時の最初の兆候でした。

 それ以前にも、地球の平均気温が高くなるとそれだけ熱帯地域で海水が蒸発する程度が大きくなるため、巨大なハリケーンや台風が発生するようになると予測されていたわけですが、2005年にはカトリーナ、ウィルマ、リタと当時としては観測史上10位に入る大きさのハリケーンが3つも発生し、大きく注目されました。

 そこで、このような台風やハリケーンの大型化傾向がどうなるのかをシミュレータが予測してきました。その結果を一言で言うと、今後2020年代には台風の発生回数自体は減るけれども、台風の規模は年々大型化すると予測されています。

 シミュレータが警告することは、それだけではありません。ゲリラ豪雨などの集中豪雨が日常化することも予測されています。そして降雨災害としてはこちらのほうがより深刻な被害を日本にもたらすこともわかっています。

 20世紀の大規模な自然災害をみると、台風ばかりが大きな被害をもたらしていました。しかし21世紀に入ってからは、むしろ豪雨により被害が目立つようになりました。そして豪雨はどこでいつ発生するかが予測しにくい。いわゆるカオス理論にそって起こる気象現象なので、それが増えることはわかっても、いつどこで起こるのかは予測が困難なのです。

 そして、いったん莫大な量の雨が降り注ぐと、その地域の地盤が緩んで、かつてなかったような地滑り災害をもたらすようになります。こういった予測されていた未来が到来し、その抜本的な対策がないという現状を考えると、冒頭にお話ししたように、こういったシミュレーション予測に関する報道が控えられるようになった理由もわかる気がします。

熱波の到来

 では、これからの2020年代は、どのような気候の大異変が起きるのでしょうか。20年前の予測に基づけば、台風と豪雨に加えて、あと2つ大きな変化が私たちを待っているようです。

 ひとつめは「熱波の到来」です。熱波は、これまで日本では気候災害として捉えられてきませんでした。過去最高気温を記録した日に熱中症で搬送される人が増えた、というようなニュースが流れますが、逆にいえばその程度の問題だと認識されてきました。

 しかし地球規模でみると、熱波の影響は大きくなりつつあります。2003年にはヨーロッパを大熱波が襲いました。この年、パリでもっとも多くの被害者が出て、フランス国内の犠牲者は実に1.5万人にものぼりました。今年の夏もフランスを熱波が襲い、1500人もの死者を出しています。地球温暖化を止めるためにパリ協定が結ばれたのには、パリが最大の被災地になっていたことが少なからず影響していると私は考えています。

 この熱波が2020年代にはいよいよ東京や大阪など日本の大都市を襲うようになるというシミュレーション予測があります。私たちが「真夏日や熱帯夜が多い」「今年は熱中症患者が多いな」と思っていると、実はそれは日本を初めて襲う記録的な熱波だったと後年言われるかもしれません。そのような災害がこれから到来することが予測されているのです。

 熱波について私たちが備えにくいのは、それが4年から7年に一度起きるといったかたちで、発生間隔がとても長い災害だという特徴があるからです。たとえば昨年の夏は熱波ではないにしろ非常に暑かったですが、それと比較すると今年の夏は少なくとも8月の前半まではそれほど暑くはなく、例年に比べるとすごしやすかった。つまり夏のピーク時の暑さには年ごとのばらつきが大きいのです。

 そういったかたちで、暑い夏やすごしやすい夏などが何年か続いた後に、突然ある年に熱波がやってくる。最高気温が40度を超える日が1週間以上続くといったことが起き、クーラーのない部屋で生活をしている高齢者が次々と病院に搬送されるような事態に見舞われます。かつて日本が経験したことがないほどの規模で。

 いつ、どの地域で起きるのかはわかりませんが、そういったことが起きる年が2020年代に2回ぐらいやってくる。そのようなことが予測されているということを、今のうちに私たちは記憶しておくべきだと思います。

農業への影響

 もうひとつ予測されているのが、2020年代の末頃までに、各地の気候が、その場所で現在栽培されている農作物にとって不適切な気候に変わっていくということです。

 わかりやすい例としては、青森県はりんごの産地ですが、このまま気候変動が続くと、やがてみかんの産地に適した気候に変わるとシミュレーションで予想されています。北海道は本州とは違う、寒さにつよい品種の米が栽培されていますが、やがてコシヒカリの栽培に適した気候に変化することになります。

 こうした変化は、過去20年間はあまり農家が気にすることではありませんでしたが、2020年代に入ると本格的にそのような気候変化が起きることを念頭に、何を栽培するのかという戦略を地域単位で考えていく必要が生じるというのです。

 さて、どの予測も私たちにとってあまり嬉しい未来ではありません。しかし、巨大台風もゲリラ豪雨も私たち日本人の日常になってきました。そして、これからはまだ実感がわかない熱波災害も経験することになり、やがては各地の植物相自体が大変化を遂げることになる。こういった変化が今起きているということを再認識しながら、災害に対する備えを個々人が行っていかなければならない。そんな時代がやってきたということなのです。

(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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