富士山噴火は必ず起こる?システム誤動作、健康被害、経済被害…
「3年で富士山は噴火する」(「現代ビジネス」<9月1日>)、「3.11以降、富士山噴火の前兆が急増している」(「週プレニュース」<10月23日>)などだ。12月2日付朝日新聞も、「火山列島」特集を組み、「富士山噴火、西日本にも影響懸念 首都機能補う必要も」と煽っている。
メディアが取り上げれば、市民の関心は高まる。そして関心は不安になっていく。そこで、今回は、富士山噴火をめぐりいわれているあれこれを検証してみたい。
東日本大震災以降、とくに富士山噴火にメディアの注目が集まっている。巨大地震後は噴火のおそれが高まるという連想からだ。実際、1707年12月16日に起きた宝永噴火では、わずか49日前にマグニチュード8.4の宝永東海地震が起きていた。
しかし、かならず大地震と噴火が連動するというわけではない。むしろ、大地震が火山活動を低下させる場合もあると述べる地震学者もいる。大地震が噴火の引き金になる場合もあるが、地震と噴火は基本的に独立した現象と考えてよさそうだ。
規模や発生有無の予知は難しい
では、富士山に異常な徴候がないか監視するシステムはどのようなものか?
富士山を取り囲むように、気象庁、防災科学技術研究所、東京大学地震研究所などの機関が、観測機器を設置している。山頂から半径10キロ圏内に、地震計16基のほか、地盤の傾斜を測る傾斜計が7基、地殻変動を測るGPSが18基、地下の熱を捉える全磁力計が4基といった具合だ。
これら観測機器により大規模噴火の前兆現象を捉えることは、ある程度はできるだろう。ただし、前兆と見られる現象が起きたとしても、大噴火になるのか、小噴火になるのか、噴火が起きずに済むのかといった規模や有無までは予知することは難しいようだ。
富士山噴火の危険性は高まっているのだろうか?
東大地震研はホームページで「もちろん、将来を考えれば、富士山が噴火する可能性は100%です。ただし、現時点では噴火に直接つながることを示す観測データはありません」としている。富士山は活火山だからいつかは噴火するだろうが、火山研究の観点からは、噴火の予兆は観測されていないということだ。
「富士山噴火イコール大噴火」という“等式”を描いている人も多いだろう。最後の富士山噴火である宝永噴火が、16日間続き、房総半島まで噴出物が降り注ぐ大規模なものであったことも、この“等式”の感覚と関係していることだろう。
しかし、他の火山と同様、過去に起きた富士山噴火の規模は大小さまざまある。実際、富士山の噴火については小規模なものが多く、宝永噴火はこれまでの富士山火山史上にない大規模噴火だったという。次に起きる富士山噴火が、再び大規模噴火になるか、小規模になるのかは、誰もわからない。
被害規模の想定
もちろん、最悪の場合を想定して防災や減災を目指すことは重要だ。そこで、地方自治体や国の防災関係機関で構成される富士山火山防災協議会が、2004年につくった「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」を見てみると、噴火の被害想定が書いてある。
経済的には「最大で約2兆5000億円にものぼる甚大な被害が想定される」とある。これは、火山灰が降った地域だけでなく、社会全体に対する影響を想定してのものだ。
また、実生活面での影響も気になるところだ。とくに雨が降っていた場合、灰が水気を含むため全体的に影響は大きくなるという。ただし、雨の場合でも道路の通行不能は「3700キロ〜1万4600キロ」、電気・ガス・熱供給への影響は「0〜約108万世帯」などと触れ幅は広い。健康被害については、目・鼻・のど・気管支の異常を訴える人は「1,250万人」にのぼるという。国民の10人に1人だ。
通信関連では、電波障害による通信の支障が起きる範囲が「約12万ヘクタール」と掲げられているが、それだけで済むだろうか?
火山灰は4マイクロメートル(1000分の4ミリメートル)ほど小さいものまであり、わずかな隙間にも侵入しうる。このことからコンピュータの停止や誤作動を懸念する火山研究者もいる。
こう並べて見ると、わかっていない点が多いことに気がつく。日本人は東日本大震災で、想定外の被害が実際に起きるものであることを身をもって経験した。わからない点があることをわかった上で富士山噴火に身構えることは、実際に事が起きたときの覚悟の足しになるだろう。
(文=漆原次郎)