20日午前11時43分、熊本県の阿蘇山が噴火し、気象庁は阿蘇山の噴火警戒レベルについて、山への立ち入り規制が必要な「3」に引き上げた。今月13日には火山活動の高まりがみられるとして、気象庁が噴火警戒レベルを「1」から「2」に引き上げていた。すでに熊本県内で降灰が確認されているが、20日21時時点で負傷者は出ていない。
気象庁によれば、火砕流が火口から1キロ以上の場所まで到達したものの、さらに大きな噴火が起こる可能性については「マグマの上昇を示す明瞭な地殻変動はなく、現時点では考えにくい」という。また、火口から4キロ以内に住居はないことから、「避難までは必要ない」としている。
今回の阿蘇山の噴火で再び関心が寄せられているのが、阿蘇山と同じく活火山に分類されている富士山の噴火の可能性だ。富士山は約300年前の宝永4年(1707年)に噴火し、噴火は約2週間も続き、大量の火山灰が江戸方面(当時)に降り積もった。
果たして今回の阿蘇山の噴火は、富士山の噴火、さらには数年以内の発生が予想されている首都直下地震に何か影響をおよぼす可能性はあるのか。武蔵野学院大学特任教授の島村英紀は、次のように解説する。
「今回の阿蘇山の噴火と富士山の噴火については、関連はわかりませんが、おそらく関連はないと考えられます。しかし、阿蘇山の噴火とは関係なく、富士山はいつ噴火してもおかしくない状況であり、もし南海トラフ地震が起きれば、それに誘発されて噴火する可能性はあります。前回の宝永4年の噴火は、大規模な宝永地震から49日後に発生しています。
日本には現在、111の活火山があり、いつ噴火するかは予測できません。2018年に噴火した草津白根山は当時、明確な予兆は観測できておらず、火山学者も気象庁も噴火の可能性を把握していませんでした」
日本政府は、関東から九州の広い範囲で強い揺れと高い津波が発生するとされる南海トラフ地震と、首都直下地震について、今後30年以内に70%の確率で発生するとの予想を発表しているが、島村氏は次のように警戒を呼び掛ける。
「太平洋プレートが沈み込んでいるフィリピン海プレートは、毎年約4.5cm動いており、南海トラフ地震の発生が近づいています。10月7日に発生し、東京都や埼玉県で震度5強を観測した地震は、震源の深さは約80キロメートルと浅く、地震の規模はマグニチュード(M)5.9でしたが、約100年前の1923年の関東大震災はM7.9で、10月の地震のエネルギーと比べ約1000倍の大きさであり、その規模の地震が起こる可能性があると予想されているわけです。
それは今後10年以内に起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。そして、発生が先になるほど、地震の規模がより大きくなる可能性もあります」
当サイトは2013年1月1日付記事『富士山噴火は必ず起こる?システム誤動作、健康被害、経済被害…』で、富士山が噴火した場合に想定される被害について報じていたが、改めて再掲載する。
※以下、肩書・日時・数字等は掲載当時のまま
――以下、再掲載――
「富士山噴火」の話題を、メディアが盛んに取り上げている。「3年で富士山は噴火する」(「現代ビジネス」<9月1日>)、「3.11以降、富士山噴火の前兆が急増している」(「週プレニュース」<10月23日>)などだ。12月2日付朝日新聞も、「火山列島」特集を組み、「富士山噴火、西日本にも影響懸念 首都機能補う必要も」と煽っている。
メディアが取り上げれば、市民の関心は高まる。そして関心は不安になっていく。そこで、今回は、富士山噴火をめぐりいわれているあれこれを検証してみたい。
東日本大震災以降、とくに富士山噴火にメディアの注目が集まっている。巨大地震後は噴火のおそれが高まるという連想からだ。実際、1707年12月16日に起きた宝永噴火では、わずか49日前にマグニチュード8.4の宝永東海地震が起きていた。
しかし、かならず大地震と噴火が連動するというわけではない。むしろ、大地震が火山活動を低下させる場合もあると述べる地震学者もいる。大地震が噴火の引き金になる場合もあるが、地震と噴火は基本的に独立した現象と考えてよさそうだ。
規模や発生有無の予知は難しい
では、富士山に異常な徴候がないか監視するシステムはどのようなものか?
富士山を取り囲むように、気象庁、防災科学技術研究所、東京大学地震研究所などの機関が、観測機器を設置している。山頂から半径10キロ圏内に、地震計16基のほか、地盤の傾斜を測る傾斜計が7基、地殻変動を測るGPSが18基、地下の熱を捉える全磁力計が4基といった具合だ。
これら観測機器により大規模噴火の前兆現象を捉えることは、ある程度はできるだろう。ただし、前兆と見られる現象が起きたとしても、大噴火になるのか、小噴火になるのか、噴火が起きずに済むのかといった規模や有無までは予知することは難しいようだ。
富士山噴火の危険性は高まっているのだろうか?
東大地震研はホームページで「もちろん、将来を考えれば、富士山が噴火する可能性は100%です。ただし、現時点では噴火に直接つながることを示す観測データはありません」としている。富士山は活火山だからいつかは噴火するだろうが、火山研究の観点からは、噴火の予兆は観測されていないということだ。
「富士山噴火イコール大噴火」という“等式”を描いている人も多いだろう。最後の富士山噴火である宝永噴火が、16日間続き、房総半島まで噴出物が降り注ぐ大規模なものであったことも、この“等式”の感覚と関係していることだろう。
しかし、他の火山と同様、過去に起きた富士山噴火の規模は大小さまざまある。実際、富士山の噴火については小規模なものが多く、宝永噴火はこれまでの富士山火山史上にない大規模噴火だったという。次に起きる富士山噴火が、再び大規模噴火になるか、小規模になるのかは、誰もわからない。
被害規模の想定
もちろん、最悪の場合を想定して防災や減災を目指すことは重要だ。そこで、地方自治体や国の防災関係機関で構成される富士山火山防災協議会が、2004年につくった「富士山ハザードマップ検討委員会報告書」を見てみると、噴火の被害想定が書いてある。
経済的には「最大で約2兆5000億円にものぼる甚大な被害が想定される」とある。これは、火山灰が降った地域だけでなく、社会全体に対する影響を想定してのものだ。
また、実生活面での影響も気になるところだ。とくに雨が降っていた場合、灰が水気を含むため全体的に影響は大きくなるという。ただし、雨の場合でも道路の通行不能は「3700キロ〜1万4600キロ」、電気・ガス・熱供給への影響は「0〜約108万世帯」などと触れ幅は広い。健康被害については、目・鼻・のど・気管支の異常を訴える人は「1,250万人」にのぼるという。国民の10人に1人だ。
通信関連では、電波障害による通信の支障が起きる範囲が「約12万ヘクタール」と掲げられているが、それだけで済むだろうか?
火山灰は4マイクロメートル(1000分の4ミリメートル)ほど小さいものまであり、わずかな隙間にも侵入しうる。このことからコンピュータの停止や誤作動を懸念する火山研究者もいる。
こう並べて見ると、わかっていない点が多いことに気がつく。日本人は東日本大震災で、想定外の被害が実際に起きるものであることを身をもって経験した。わからない点があることをわかった上で富士山噴火に身構えることは、実際に事が起きたときの覚悟の足しになるだろう。
(文=文=編集部、協力=島村英紀/武蔵野学院大学特任教授)