イラクは8月の原油生産量が日量497万バレルを記録するなどOPEC第2位の生産国となっており、南部のバスラから日量約350万バレルの原油が輸出されている。9月のサウジアラムコの石油施設への攻撃のダメージは短期間で回復したが、政情不安による原油生産の減少は長期化する可能性がある。
1978年末に革命が生じたことで、イランの原油生産(日量560万バレル)が大幅に減少した状態が長期化したことにより、原油価格は3倍に急騰した(第2次石油危機)。革命の混乱でイラク南部から輸出されている日量350万バレルの原油が長期間ストップするような事態となれば、原油価格は高騰するのではないだろうか。
イラク発ブラックスワン
原油価格が高騰すればインフレ懸念が高まり、世界の中央銀行は一斉に引き締めモードとなる。これによりバブル化した世界経済が打撃を受けるのは間違いない。世界経済にとって頼みの綱は米国の消費である(11月15日付日本経済新聞記事より)。米国の消費額(約14兆ドル)は、中国、日本、ドイツ、英国の上位4カ国の消費額を合計したものよりも大きい。
だが米国の消費で懸念されるのは、その持続性である。米国の消費者が債務を積み上げて「身の丈」以上の消費を謳歌してきたのは周知の事実だが、なかでも目を引くのは住宅ローンの急拡大である。
ニューヨーク連銀は11月、「住宅ローン残高が9兆4400億ドルに達した」と発表した。低金利に助けられ、住宅ローン残高がリーマンショック直前の2008年に記録した9兆2900億ドルを上回り過去最高となったのである。「景気拡大により住宅などの資産価値が上昇し旺盛な消費を支える」という構図は、リーマンショック前とまったく同じである。
リーマンショック直前の米WTI原油価格が1バレル=140ドルを超えていたように、世界経済を牽引する米国の足元を揺るがせるのは原油価格の高騰のようである。1973年、1980年、1990年のリセッションの直前にも原油価格は高騰していた。
原油価格の高騰で米国の住宅バブルが弾けてしまえば、米国の消費が立ち直るのは容易ではなく、米国経済の長期低迷の影響が瞬時に世界に拡散してしまうのではないか。イラク発の「ブラックスワン(滅多に起こらないが壊滅的な被害をもたらす事象)」に要注意である。
(文=藤和彦/経済産業研究所上席研究員)