さらに、その否定を決定づけたのが、14年に発生したロシアによるクリミア半島の編入問題である。ロシアは、資本主義および自由主義の経済体に飲み込まれていくかと思われていたが、これにより、欧米の支配に事実上の「ノー」を突きつけたわけだ。
「みんなが豊かになれば平和になる」は間違い
よく「世界を平和にするためには、みんなを豊かにすることだ。貧しい人がいなくなれば、世界は平和になる」と言われるが、これは大きな誤解だ。客観的に世界の仕組みを考えると、この論理は絶対にありえない。
なぜなら、世界の資源の量というのは決まっており、無尽蔵にあるわけではないからだ。「世界中が豊かになる」ということは、「資源の膨大な消費を招く」ということと同義である。
例えば、食の高級化の問題を考えてみよう。世界中の人たちがみんな牛肉を食べるようになったら、どうなるのだろうか。当然ながら、牛を育てるためには、穀物が必要だ。そして、穀物をそのまま食用にするケースと比べて、鳥で6倍、豚で8倍、牛なら12倍の消費量になるといわれる。
しかし地球上の作付面積と穀物を生産するための水の量は決まっている。いずれも、大幅に拡大するというのは現実的ではないだろう。つまり、貧しい人が豊かになり、食が高級化することで、世界は資源不足・食糧危機に陥ってしまうわけだ。
笑い話に「13億5000万人の中国人がみんな日本人と同じような食生活をしたら、地球が3つ必要になる」というものがあるが、豊かになるということは、必然的にモノの奪い合いを招き、モノの奪い合いは対立の大きな要因になるのだ。
今、南シナ海では領有権問題が起きているが、その根底には、海底資源の奪い合いという目的がある。また、発展によるモノの奪い合いの構図は、資源の値段にも如実に表れている。リーマン・ショックの後、資源価格は高騰したが、これは新興国、特に中国が大規模な発展を遂げたことにより、資源を“爆食”したからにほかならない。
その証拠に、最近の中国経済の大減速に伴い、資源価格は大きく下落している。つまり、新興国が発展すれば、ある意味で既得権益者である先進国の取り分が減ることになる。そして、それは対立の大きな要因になるわけだ。南シナ海での動きを見る限り、最近はアメリカと中国の間でも、そういった問題が露呈し始めたといえる。
では、グローバリズムの終わる世界は今後どうなっていくのだろうか。次回から、各国別の状況を見ていきたい。
(文=渡邉哲也/経済評論家)