確かに、ベーシックインカムがたとえば1人あたり月5万円程度の比較的少額であれば、それが支給されたからといって、「もう働くのはやめて遊んで暮らそう」などと考える人はいないだろう。ベーシックインカムがこの程度の金額にとどまっていれば、生産力はさほど落ちないとみられる。
しかし、月々たった5万円では「生活に最低限必要な収入」とはいいにくい。ベーシックインカムとうたうからには、日本の場合、フィンランド並みの10万円超を念頭に、もっと上積みが求められるはずである。そして実際にもっと多い金額が支給されれば、文字どおりそれがあれば最低限の生活はできるのだから、働かない人は確実に増える。これは生産力を低下させる。
ベーシックインカムを支持する人のなかには、ホリエモンこと堀江貴文氏のように、「世の中には働くのが好きで働いているような一握りの人がいて、イノベーション(技術革新)を生み出し、社会の富を作り上げている。だから、働きたくない人は働かなくてもいい」という意見もある。しかし、この考えも生産力のことを忘れている。
なるほど、商品のアイデアを生み出すのは、たいてい一握りの才能ある企業家であるが、それを現実の商品として製造・販売する仕事は、一握りの企業家だけではできない。多くの働き手がいる。ふつうの人々がベーシックインカムに満足して働かなかったら、生産力はガタ落ちとなり、社会を物質的に豊かにすることはできない。
貧しい人々をもっと貧しく
ベーシックインカムが生産力を衰えさせる原因は、勤労意欲の低下だけではない。もし財源として増税が必要になれば、それも生産力にマイナスの影響を及ぼす。
現代経済の高い生産力を支えるのは、製造の機械化である。増税が実施されると、機械化投資に回す資金が減り、生産力の低下につながる。
企業の投資に直接響く法人税は、さいわい減税の議論が進んでいる。だが消費税や所得税など個人が負担する税金でも、増税されれば投資に影響する。個人は貯蓄から銀行預金や株式購入を通じ、企業に資金を供給しているからである。増税で個人に貯蓄の余裕がなくなれば、企業に流れる資金は減り、生産力の低下に結びつく。
資産税や相続税など富裕層への課税が強まれば、堀江氏が述べたような一握りの才能ある企業家が、日本を離れてしまう恐れもある。これも生産力にはマイナスだ。