タクシーに乗って運転手に目的地を伝え、あとは到着するのを待つだけ……のはずだった。よく行く場所で、いつもなら30分もかからずに着くはずなのに、今日はなかなか着かない。運転手に「到着した」と告げられ、確かに目的地には到着したものの45分もかかり、料金はいつもより1000円以上高い。運転手に聞くと、「この辺の道は詳しくなく、少し道を間違えた」と言う。せっかく混んでいる電車を避け、目的地に早く着こうと思ったのに時間はかかるし料金は高い。
こんなとき、時間は戻らないにしても、運賃まで高くなるのはあまりに理不尽だ。せめて通常より高い運賃の支払いを拒否することはできないのか。
原則として、タクシーの運賃は「初乗運賃」と「加算運賃」が定められていて、旅客の乗車地点から降車地点までの実車走行距離に応じた運賃を支払うという「距離制運賃」が適用されており、実車走行距離が長くなれば料金が高くなる。当然、旅客は最短距離で料金をなるべく安くしようと考え、タクシー運転手もそれを了承しているはずである。そのため、タクシー運転手は目的地までの最短距離を走行することが慣習となっているといえる。
消費者トラブルの問題に詳しい野田晃弘弁護士は、「一般人であれば通常知っていると考えられる最短距離の道順を運転手が間違えたのであれば、旅客は最短距離の場合の通常料金だけを支払えばよいと考えられます」と話す。
しかし、通常知られている道順ではなく、目的地までの最短距離の道のりがあまり知られていない場合では、そうもいかないという。
「旅客が一般的にはあまり知られていない裏道が最短距離であると考えていたとしても、それを運転手が知らない可能性が高いので、その場合は旅客が具体的な道順を示す必要があります。旅客の指示が不正確であるために運転手が道を間違えた場合は、増額分が含まれた運賃料金メーター器の表示額を支払うことになるでしょう」(同)。
あとから返還してもらうのは困難
では、一般的によく知られている道順と考えられるにもかかわらず、運賃が高くなった場合は、増額分の支払いを拒絶できるのだろうか。その場で運転手と話し合い、通常の運賃の支払いで納得してもらえれば理想的だ。しかし、運転手が納得しない場合にはどうなるのか。
「現場で支払いをしないことにより運転手と口論になって、その対応に時間がかかることが想定されます。その後の予定があるからと口論を切り上げて、支払いをしないまま立ち去ろうとすれば運転手が警察に通報する事態も考えられます。話し合いで解決できない場合は、増額分を含めて料金を支払い、後日タクシー会社に請求するという対応を取らざるを得ないでしょう」(同)