しかし、後日タクシー会社に請求する場合は、運転手が道順を間違えたために増額分を支払うことになったという事実を、旅客側が主張立証する必要がある。
「時間が経過するにつれて記憶も不鮮明となるのが通常ですから、一般論として、日にちをあけてしまうと旅客の主張が認められる可能性は低くなるでしょう。したがって、料金に納得がいかない場合は、現場でしっかりと運転手に主張し、増額分を支払わないようにできればいいですね」(同)
やはり、降車時に増額分の支払いを拒絶しなければ、後からタクシー会社に請求しても返還してもらうのは難しいようだ。タクシー会社へ請求する場合に、よい交渉方法はないのだろうか。
「タクシー会社に増額分の返還を請求する場合には、現場で全額の支払いを済ませて降車する際に領収証を受け取り、運転手の名前を聞いておくことは必須です。また、証拠保全等の方法として確実なものはあまり考えられませんが、記憶が鮮明なうちに運転手とどのような会話をしたか、どういう道順で走行したかなど、具体的な状況をメモに残しておいたほうがよいでしょう」(同)。
ただ、ここまでしっかりとやるべきことをやったとしても、タクシー会社が簡単に増額分を返還してくれる可能性は低い。その場合は裁判で請求するしか方法がなくなるが、その場合には、費用も時間も多くかかってしまうのだ。
運転手が道順を間違えたために運賃が余計にかかった場合、その増額分を支払う義務はない。だが、トラブルを嫌って増額分も払う人が多いだろう。金額が大きくなく、一度きりであればあきらめもつくが、何度も経験したり、増額分が非常に大きかった場合、泣き寝入りするのは納得いかないだろう。
現場で話し合っても解決できない場合、その場でタクシー会社に連絡をするなり、自分にできる限りの証拠保全に努め、後から請求するための態勢を確保することが重要だ。
(文=Legal Edition)
【取材協力】
野田晃弘(のだ・あきひろ)弁護士
道都総合法律事務所(http://hokkaido-law.com/)
北海道札幌市にある法律事務所。瀧澤隆之介弁護士と2人で現在の事務所を開設し、共同経営している。離婚事件、労働事件、インターネット上のトラブル、消費者問題、刑事事件等、幅広い分野の法律相談を受け付けている。