今、ヨーロッパが揺れている。
EU(欧州連合)や共通通貨・ユーロの導入でひとつになろうとしてきたヨーロッパだが、2010年からのギリシャ・ショックに続き、昨年には難民問題も発生したことで、もはやバラバラになりつつあるのだ。
ヨーロッパが統合に向けて動いてきたのは、超大国・アメリカに対抗するためである。約3億2000万の人口を持つ巨大マーケットであり、世界的な金融支配を行うアメリカに対抗するには、もはや一国だけの力では不可能だ。
そこで、ヨーロッパ全体がひとつになることによって、約5億人ともいわれる一大マーケットをつくり上げ、強大な経済体としてアメリカに対抗する。そうした文脈で生まれたのが、EUであり、ユーロであったといえる。
また、かつて西側諸国の敵であった旧ソビエト連邦が崩壊したことも、ヨーロッパがひとつにまとまる大きな要因となった。旧ソ連がなくなったことで、ヨーロッパ諸国はアメリカの軍事力の傘の下に入らなくても済むようになったからだ。
しかし、その統合体制も、14年3月にロシアが半ば強引にクリミア半島を編入したことによって、大きく変化することになった。また、同時にヨーロッパ自体の大きな欠陥が露見したことで、今ヨーロッパは分裂に向けて動きつつあるのが現状だ。
その欠陥の典型が、ギリシャ問題だ。同じユーロ導入国であっても、国の状況はさまざまで、ドイツ・フランスとギリシャのように、国家間に大きな経済格差のあるケースも少なくない。もともと、文化的にも民族的にも別々の国だったわけで、当然といえば当然である。
それら別々の存在を統合しようとする時、必要になるのは「絶対的な力」か「絶妙な力のバランス」である。しかし、近年のギリシャ問題によって、ヨーロッパの力のバランスは崩れ始めたことが露見した。
08年に発生したリーマン・ショックによって、ヨーロッパの金融市場は大きなダメージを受けた。そのため、ヨーロッパの金融資本はリスクの高い新興国から安全な国、つまりドイツやフランスなどの大国に逆流することになった。
そのあおりを食うかたちで、ヨーロッパの経済弱者の国が破綻危機に瀕し、それらの国々を指す「PIGS(ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン)」という総称まで生まれた。
ずっと借りられると思っていたお金を「すぐに返せ」と言われて、すぐに返せる人はいない。しかし、現実にはリーマン・ショックによって「ずっとお金を借り続けることができる」という幻想が崩壊してしまった。そのため、経済危機が連鎖したというのが、10年頃にヨーロッパを襲った、いわゆるソブリン危機の背景なのである。
『戦争へ突入する世界 大激変する日本経済』 中国経済の崩壊は、人民元の主要通貨入り、アメリカ利上げでどう進むのか? 難民とテロに苦しむ欧州で始まったユーロ分裂と対立の行方は? 南シナ海での米中衝突と、日本の中国・韓国包囲網による新たなアジア秩序とは? 動乱へと向かう世界のなかで日本経済に起こる大きな転換とは? 日本人が知らない世界の大変化と日本経済の今後を読み解く!