ギリシャ救済をめぐって対立するヨーロッパ
そして、なかでも最も重症だったギリシャが、デフォルト(債務不履行)の危機に陥ったわけだ。ギリシャはもともと産業基盤が弱く、経済は公務員主体の社会主義的なシステムである。仕事がないので公務員が多く、公務員でなければ仕事がない……。完全に歪んだ構造体だったわけだ。
なぜ、そんな歪んだシステムが成立していたのだろうか。それは、04年のアテネオリンピック開催と、それに伴う「ギリシャはこれから発展するだろう」という期待、さらに先進国の貸付があったからだ。それらによって、成り立っていたかに見えたギリシャ経済だったが、09年の政権交代によって財政赤字の隠蔽が明らかになり、一気に坂を転がり落ちていったことは周知の通りだ。
このギリシャ救済をめぐっても、ヨーロッパは割れた。先進国側と新興国側で対応が大きく違ったのだ。
当然ながら、貸し手の国と借り手の国の立場は違い、それぞれの主張も違ってくる。貸し手の一番手であるドイツは「お金を借りた側が悪い」「すぐにお金を返せ」と叫び、放漫財政を続けるギリシャに対して緊縮財政政策を求めた。
しかし、ギリシャは「貸した側が悪い」「そんなことを言われても、急には返せない」の一点張りだ。当然、その間で話し合いなどまとまるわけがない。その結果、ギリシャの債務危機は深刻化し、先進国、特にドイツと他国の対立は決定的になりつつある。
また、その対立によって、EUおよびユーロの存在意義も疑問視されつつある。物事はうまくいっている時はいいが、ひとたびケチがつけば不満が噴出するのが常である。みんなにとってメリットがあれば、EUやユーロの存在および拡大路線は歓迎されるが、デメリットのほうが目立ってきた時には、それを否定する動きも出始めるというわけだ。
その結果、イギリスではEU離脱の是非を問う国民投票が行われることが決まっており、早ければ今年6月にも実施される。仮にこの投票でEU離脱が肯定されれば、EUという壮大な社会実験は失敗に終わった、という見方が大勢を占めることになりかねない。また、そのほかの国においても、「このままEUにとどまるべきか」「ユーロを使い続けていていいのか」といった議論が生まれ始めていることは事実である。
そんな中、昨年にはシリアから大量の難民が流入するという新たな問題が発生した。その影響については、次回に見ていきたい。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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