17年に予定されている消費税引き上げ率は8%から10%への2%だが、景気に対するマイナスの影響は甚大なため、消費増税による景気の腰折れは、あってはほしくはないが十分に考えられるシナリオである。
政権と景気
今の景気回復期(第16循環)がこれまでの回復期の平均だとすると、前述のように、ちょうど消費税率引き上げ時期と景気の谷が重なってしまうため、景気の腰折れが懸念されるが、景気の循環はそんなに杓子定規に動くものではない。むしろ時の政権がどういう状態にあったかによって、景気回復時期の長短に大きく影響していることが、過去の事例から明らかになっている。
1951年以降、観察された景気循環のなかで過去に50カ月を超えた景気回復期が3回だけ記録されている。1回目が、第6循環(1965年10月~70年7月)の57カ月。2回目が第11循環(86年11月~91年2月)の51カ月。そして、3回目が第14循環(2002年1月~08年2月)の73カ月である。この3回の景気回復期は、いずれも戦後の長期政権の上位にランクされる安定政権の下で達成されている。
第6循環は、まさに佐藤栄作元首相が政権の座にあった期間に景気回復期を迎えており、第11循環にも中曽根政権の後半に景気が上向き、のちの政権にバトンタッチされている。また、第14循環は小泉政権の下で景気回復が始まり、在任中ずっと好景気を維持し続けた。
このように、政権が長期に安定すると、景気回復の期間が長く続く傾向があるのは、間違いのない事実である。背景には、長期政権であれば思い切った政策が実行しやすくなり、そのような政策を実行することで、経済が活性化し、国民の支持も獲得しやすくなるという好循環が生まれることがある。現在の第二次安倍内閣が発足したのは12年12月26日であり、すでに発足してから3年以上経っているため長期政権と呼べる。
現安倍政権は14年12月に衆議院の解散総選挙で大勝利を果たした上、その後も比較的高い国民の支持率を維持し、昨秋には自民党総裁として再任されている。
また、今夏には参議院選挙が予定されている。もし、安倍首相が現状並みの支持率を維持しながら、経済に軸足をおいて政権運営を続け、参議院選挙を大過なく戦い抜くことができれば、先に紹介した諸先輩方に並ぶ長期政権になる可能性が大きくなる。
その場合、景気回復の期間も平均の3年を超えた長期のものとなる可能性が高くなる。そうすれば、消費税率の引き上げ時期が、景気後退の時期と重なり、景気後退局面を長期化させてしまうという最悪の事態は避けられる可能性もある。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)