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山陽新聞会長、地元・加計学園の理事だった…記事見出しで「加計」使用避けるルール

文=編集部
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加計学園公式ホームページより

 ファッション誌でもおなじみの女性向けファッションブランド「アースミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナル(岡山市)の石川康晴社長(49)が、社内の女性従業員にセクハラ行為をしたことが判明した。朝日新聞インターネット版は4日、『大手服飾社長が社員にセクハラ 政府会議の議員』と報道。記事では石川氏が19年3月から、内閣府の男女共同参画会議の議員を務めていたことも指摘していた。実は、石川氏の地元岡山県の経済界ではセクハラ事件そのものより、危惧されているものがあるという。それは「安倍晋三首相と岡山県の関係が批判され、また再燃するのではないか」という不安だ。

 地元には苦い記憶が残る。あの加計学園は地元岡山を代表する学校法人だからだ。「週刊文春」(文藝春秋、3月5日発売号)が報じた『加計学園・岡山理科大学獣医学部獣医学科の推薦入試における不正疑惑』で再び、加計学園の名前が巷にあらわれはじめた。そして同問題を含め、最近の政府関連の醜聞では、加計学園をはじめ多くの岡山出身の政治家や業界人が見え隠れする。

石川氏の財団に山陽新聞幹部の名前が2人も

 石川氏は1970年、岡山市生まれ。県内の高校を卒業した後に専門学校を経て、県内に女性向けファッションショップを設立。1999年に主力ブランド「アースミュージック&エコロジー」を立ち上げた。2010年、岡山の地域経済活性化と若手支援を目的に私財を投入し2010年に「オカヤマアワード」を創設した。 県内の芸術文化振興を図るため、公益財団法人石川文化振興財団を立ち上げた。同振興財団の役員は以下の通りだ。

理事長(代表理事)石川康晴 株式会社ストライプインターナショナル 代表取締役社長

理事 足羽憲治 岡山県信用保証協会 会長

理事 越宗孝昌 株式会社山陽新聞社 取締役会長

理事 槇野博史 国立大学法人岡山大学 学長

理事 松田正己 一般社団法人岡山経済同友会代表幹事 株式会社山陽新聞社社長

理事 宮長雅人 株式会社中国銀行 取締役頭取

 地元、岡山県を代表する経済人が並ぶ。ここで、気になるのが山陽新聞会長の越宗(こしむね)氏と同社社長の松田氏の存在だ。中国地方の地方紙労働組合関係者がヒントをくれた。

「山陽新聞とその会長の越宗氏は、加計学園疑惑で登場した人々の中で、いまだにほとんど触れられていないキーマンのひとりです。たかが地方紙の会長と侮ることなかれ。非常に政権に近い人物と言われています。自民党岡山県支部連合会、山陽新聞の越宗氏、地元経済界の関係性を見ることなしに、加計学園の問題はわかりません。そもそも自民党岡山県連の重鎮である加藤勝信氏は、安倍晋三首相と浅からぬ縁のある人です。そして越宗氏はそんな加藤氏と懇意です」

 厚生労働大臣の加藤勝信氏の義父で元国土庁長官の加藤六月氏は、安倍晋三首相の父晋太郎氏の側近。「安倍四天王」の一人と言われた人物で、安倍首相の母洋子さんが「最も信頼を置いていた」と言われる。その後継者で、娘婿にあたる加藤厚労相と安倍家は特別な関係だ。

 それを踏まえて、まず自民党岡山県連のメンバーで加計学園関連の噂がある人物を列記してみたい。

 まず県連会長の橋本岳厚生労働副大臣。最近ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の指揮で話題になった。橋本龍太郎元首相の次男で以前、加計学園高校に招かれて講演した。そして前出の加藤厚労相。新型コロナウイルス感染症の拡大で注目を集めているが、官房副長官時代に加計学園獣医学部設置に絡む口利き疑惑が一部報道で指摘された。加藤氏は学園事務局長と接触したことを認めたが、口利き自体は否定している(2018年5月21日、朝日新聞)。

 逢沢一郎衆議院議員は県内有数のゼネコン「アイサワ工業」創業者の孫にあたる。アイサワ工業は岡山理科大学獣医学部の今治校舎の建設を受託した企業の一つだ(2017年7月5日、週刊朝日アエラドット)。そして、石井正弘参議院議員は加計学園グループ吉備高原学園元理事長だった。

越宗氏は加計学園の理事だった

 『「大東建託」商法の研究』(同時代社)などの著者がある山陽新聞元記者でフリージャーナリストの三宅勝久氏は次のように話す。

「山陽新聞社の越宗氏は加計学園の理事です。2014年に理事に就任してからこの問題がクローズアップされていた時期には一切、明らかにされていませんでした。

 学園の内部資料によると、越宗氏は代表取締役社長時代に、加計孝太郎理事長から『政財界にも広い人脈がある』として、推薦を受けて理事になりました。この事実関係を山陽新聞に問い合わせたところ、『わかりかねます』との回答でした。岡山県を代表する学校法人である加計学園と山陽新聞社は新聞広告の受発注者として古くから関係がありました。そうした付き合いを考えれば、理事就任もおかしなことではないのかもしれません。しかし、報道機関の長が利害関係にある団体の役職に就くのであれば役員会に報告するのが筋です。にもかかわらず、会社が『知らない』というのは明らかにおかしいです」

紙面から消えた「加計」の文字

 地元新聞社の代表者が渦中の学園の理事だったというのだ。であれば、経営陣の編集権への不可侵は大前提ではあるものの、内幕を知り得る地元メディアの代表者として、編集側に発破をかけたり、社内に大特集の大号令をかけたりしたのだろうか。疑惑を肯定するにせよ、否定するにせよ、最もニュースの核心に近い場所に自社の代表者がいたのなら、全国紙を圧倒するくらい紙面は充実したことだろう。

 ところが、事実は違った。三宅氏は次のように話す。

「編集局内で学園への『忖度』疑惑が噴出したのが、山陽新聞労働組合と会社の話し合いでした。18年6月5日の『生産活動協議会』で、労組書記長が同社取締役に対して『加計報道のあり方』について質問したことが端緒です。

 当時、加計学園問題は正念場を向かえていました。にもかかわらず、山陽新聞の紙面はほとんどが共同通信の配信原稿が使われていました。しかも、共同原稿の整理作業(見出しなどをつける編集作業)では、『加計』という言葉を使わないような暗黙の決まりがあったそうです。

 本来であれば1面にいくようなニュースでも、内政面(2、3面)に掲載するなどワンランク下の扱いをしていたそうです。労組はこれを問題視し、きちっと地元紙として取材、編集すべきではないかと問いました。これに対して、会社幹部は共同原稿が(内容的に)偏りすぎているのでバランスを取っているなどと説明しました」

 一般論だが、共同原稿に不備がある場合、地方紙は自社の記者を使って補足取材をさせて再構成したり、ゼロから取材をして独自記事を出稿したりする。そもそも共同原稿の真偽や論調に疑問があるのなら、その原稿の掲載を見送るのが自然だろう。5W1Hの明記を旨とする新聞社で、特定の固有名詞を使用しないで見出しをつくって掲載し、「バランスを取る」という編集方針は奇妙だ。三宅氏は次のように続ける。

「安倍首相は加計孝太郎氏と古くから懇意にしていたことは事実でしょう。しかし、安倍首相は加計学園が獣医学部を新設する意向を知ったのは、国家戦略特区会議で獣医学部新設校に決定された2017年1月20日で、それ以前は知らなかったという説明をしました。

 そんななか、愛媛県の記録が公表されました。記録には2015年2月25日に安倍首相と加計理事長が会い、獣医学部新設計画に首相が前向きな姿勢を示したとの記載があったのです。当時の報道関係者は誰もが、事の真偽を加計理事長に聞いてみたいと思っていました。ところが、加計理事長はいっこうに姿を現しませんでした。唯一、メディア関係者で声を聞く機会があったのは越宗氏だったのではないかと思います」

加計理事長の会見で外部のメディアを締め出す

 労使の会議後の同年6月19日、加計理事長は岡山市北区の学園本部に騒動以来はじめて姿を見せ、記者会見を開いた。会見で加計理事長は愛媛県作成の文書に記載された安倍晋三首相との面会について「記憶にも記録にもない」と否定。学園事務局長が虚偽の情報を愛媛県側に伝えたと釈明した。

 そして、この記者会見でも山陽新聞は重要な役割を果たした。この会見を仕切ったのが幹事社である同社だったのだ。この記者会見には、地元記者クラブ加盟の会員しか参加できず、多くのメディア関係者が締め出された。

「あの会見が、この問題のターニングポイントになったと思います。稚拙なやり方ではありましたが、結果としてこの問題は収束に向かいました。報道も縮小していきました。ちなみに翌日の山陽新聞の1面はサッカーワールドカップと前日に発生した大阪の地震が掲載され、この会見の記事はありませんでした。

 そもそも加計理事長はなぜ、越宗氏を名指しで学園理事に据えたのでしょうか。また越宗氏はなぜ理事を受けたのでしょうか。越宗氏は編集出身の人間でしたが、社長就任以降は落ち込む販売部数や広告対策のために各業界団体の役員に名前を連ねるようになったと聞きます」(三宅氏)

加計学園の理事には岡山県知事の父の名前も

 それでは現在の加計学園の役員の面々を見てみよう。

理事長 加計晃太郎

副理事長 加計役

専務理事 北村良人

理事 柳澤康信(岡山理科大学学長)

   河野伊一郎(倉敷芸術科学大学学長)

   木曽功(千葉科学大学学長)

   越宗孝昌

   加計正弘

   村田誠四郎(SID創研代表取締役)

   伊原木一衛

監事 唐井一成

   川添利賢

 SID創研は加計学園の子会社だ。理事で学園や加計家と関係がないのは、越宗氏と伊原木氏の2人のみ。ちなみに伊原木一衛氏は岡山市の百貨店の天満屋前取締役会長で、現岡山県知事の伊原木隆太氏の父だ。学園のコネクションが全県に及ぶものであることがあらためてわかる。

 加計学園と岡山県の関係について、同県経済団体関係者は話す。

「地元の政治家や事業家が政権中枢に近ければ、新規事業への支援や公共事業誘致を陳情します。どこの地方でもやっていることですし、地方経済はそのように回っています。今回の一件はその延長線上に過ぎません。越宗さんと山陽新聞もそう。地元のことを考えてくれる自民党岡山県連と現政権を支持しているだけでしょう。

 岡山の経済界は努力して地元政治家を応援しています。加計学園も、何度も獣医学部新設にむけてチャレンジをしていたのに、岩盤規制の壁に跳ね返された。首相との関係がどうなのかは知りませんが、それを突破するために持てる限りのコネを使って地元に仕事を持ってきただけのことです。そもそも政府と近いことに何か問題があるんでしょうか」

 政権やそれに付随する事業者との癒着、権力とメディアの立ち位置、記者会見のあり方。いずれも政府の新型コロナウイルス感染症対策でも話題になったテーマだ。加計学園疑惑からは、今もなお日本社会のいびつな構造を透けて見ることができる。
(文=編集部)

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