「感染経路がわからないケース」が国の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議でも懸念され始めている。感染の実態が不明瞭な状況で、多くの会社員にとって最も気になる場所が朝夕の通勤電車だろう。政府が感染症対策の一環として、テレワークや時差通勤を呼びかけたこともあり、普段より混雑が緩和されたようにも思えるが、果たして対策は十分なのだろうか。そんな庶民の疑問に、加藤勝信厚生労働大臣が放った“上級国民”らしい回答が物議を醸している。
「通勤電車は空いているという話を聞くこともあります」
「あの、ちょっと、わ、私は、あの通勤電車に乗っていないんでわかりませんが、聞く限りでは一定程度、通勤電車は空いているという話を聞くこともあります」
加藤厚労相は23日、参議院予算委員会の質疑で、日本維新の会の東徹参議院議員(大阪府選挙区)の質問に対して上記のように答えた。東氏は「感染が拡大するとされている条件として、『換気が悪い密閉空間』『人が密集している』『近距離での会話の発生』などが専門家会議で指摘されている。それらが通勤電車で起こっているのではないか。非常に問題だと思っている。政府として、時差通勤、テレワークを呼びかけているが、進んでいない。もっと踏み込んだ対策を行うべきではないか」などと質問していた。
この質問に対し、当初、加藤厚労相は次のように答弁書を読み上げた。
「満員電車の場合、大きな声出している人はあまりいなように思います。駅と駅のスパンもありますが、換気もひらいたりあいたりしている。そういう側面はあるんだろうと思います。ただ空いている電車に比べれば満員電車のほうが、はるかにリスクが高いです。
政府としても公共交通機関の利用者に対してはテレワーク、時差出勤をお願いし、厚労省でも率先して実施し、政府をあげて取り組みをさせていただきました」
あたかも朝夕の通勤電車の実情を知っているかのような答弁だ。しかし、次に続いたのが前出の「私は、あの、通勤電車に乗っていないんでわかりません」という回答だったのだ。
「一定程度、空いてる電車はまだか!」
この回答に、Twitter上では突っ込みが相次いでいる。
「私は電車に乗りませんが、夫と子供を毎朝、戦地へ送り込むような気持ちで見送ってます。『手すりと吊り革触らないようにね』『手洗ってね』何回言っても不安は消えません。毎日、今日から2週間って潜伏期間考えちゃって…凹みっぱなしです」
「一定程度、空いてる電車はまだか!」
「少なくとも国の医療を司る省庁のトップとしては普段は公共交通機関を使わないまでも、もう少し想像力をはたらかせて欲しかったと思います」
「満員電車に是非乗ってほしいです。国民が命がけで、通勤している実態がわかるから。他の人の心に寄り添えない人種っているんだよね」
加藤厚労相の前職は国家公務員だ。東京大学経済学部卒で1979年に旧大蔵省に入省し、税務署長からキャリアがはじまり、主計局など大蔵官僚の花形中の花形を務めあげてきた正真正銘のエリートだ。
全国紙政治部記者は次のように話す。
「加藤さんの実父は日野自動車の副社長で、比較的裕福な身の上だったといえると思います。東大在学時や大蔵省の職員だったころに多少、通勤電車を使ったのかもしれませんが、ここ十数年の都心部の混雑の過酷さはご存知ないでしょう。東京都民が言う『今日の電車は空いている』は、他県民にとって『満員以外のなにものでもない』ことはよく知られたジョークです。
当人としては、電車通勤していないことを突っ込まれないように予防線を張ったつもりだったのかもしれませんが、“上級国民”の下地を隠し切れなかったようですね」
どうやら、政府首脳と庶民感覚との乖離は当面、是正されなさそうだ。
(文=編集部)