ビジネスジャーナル > ライフニュース > 新型コロナ、英国の「集団免疫」とは
NEW

【新型コロナ】英国の「集団免疫」は危険な賭けか?人間が“理想的な宿主”の理由

文=兜森衛
【この記事のキーワード】, , , ,
【新型コロナ】英国の「集団免疫」は危険な賭けか?人間が理想的な宿主の理由の画像1
新型ウイルス肺炎が世界で流行 武漢市の病院(写真:新華社/アフロ)

 3月11日に2009年のインフルエンザ蔓延以来となる「パンデミック(世界的な大流行)」を宣言したWHOのテドロス事務局長は、13日の記者会見で「欧州が今やパンデミックの震源地となった」と述べ、中国以外の感染者数と死者数が中国を上回ったことで、感染拡大の中心地が中国から欧州に移ったとの考えを示した。

 イタリアの感染者数は23日時点で6万人突破寸前となり、全土で移動制限を実施中。イタリアに次いで多いスペインも感染者数が2万人を突破して、非常事態を宣言した。ドイツ、フランスでもそれぞれ2万1463人、1万6018人の感染者が確認されており、EUでは27の加盟国すべてで感染者が見つかったことになる。

 すったもんだの末、そのEUを離脱したからなのか、単に日本と同じ島国だからなのか、英国の感染者数はまだ5000人台でとどまっている。にもかかわらず、英国は先週、ボリス・ジョンソン首相が緊急記者会見を行い、日本を含む世界各国が採用する封じ込め作戦に見切りをつけ、「集団免疫」という禁じ手を繰り出してきた。

 集団免疫とは、ワクチン療法における「シャルル・ニコルの法則」(1人の感染者が3人に感染させる伝染病の場合、集団の約75%がワクチンを接種すれば伝染病の流行はなくなる)を逆手に取り、あえて国民(高齢者を除く)の多くをウイルスに感染させ、体内に免疫を獲得させることで感染そのものを自然に終息させようという長期戦だ。その間に、ワクチンや治療薬の開発を待てばいい。

 シャルル・ニコルは、シラミが発疹チフスを媒介することを証明した功績により、1928年にノーベル生理学・医学賞を授賞したフランスの細菌学者である。シャルル・ニコルの法則は、日本でも毎年4月から動物病院などで実施されている、狂犬病のワクチン注射の重要性を示す根拠法則として知られている。

 飼い犬の75%に毎年ワクチンを注射すれば、狂犬病の発生を抑えることができる。狂犬病に感染した犬に噛まれた人間の致死率は100%。狂犬病は今でも恐ろしい伝染病なのだが、日本国内の狂犬病ワクチンの接種率は、法律で義務化されているにもかかわらず75%に達していない。新型コロナウイルスの終息とシャルル・ニコルの法則について、獣医師・獣医学博士で京都府立大学大学院生命環境科学研究科の塚本康浩教授(感染症学)に話を聞いた。

人間は新型コロナの理想的な宿主?

 それにしても、今回の新型コロナウイルス(SARS- CoV-2)の感染力はすさまじい。中国・湖北省の武漢市で原因不明の最初の肺炎患者が報告されたのが、昨年12月8日。同月下旬、41人が原因不明の肺炎を発症し、これが最初のクラスター(小規模の集団感染)となった。それが新型コロナウイルスによる感染症だとわかったのが、今年1月7日である。3カ月足らずで世界171カ国、感染者32万4290人、死者1万4396人まで拡大したことになる(3月23日現在)。

新型コロナウイルスは感染力が強いです。感染者が1000人を超すまでにSARSは4カ月ちょっと、MERSは3年近くかかっている。ところが、今回の新型コロナウイルスは1カ月半で1000人を超えている。しかも、今回は中国から欧州に感染が広がった。中国と世界との結びつきは予想以上に大きく、WHOもパンデミックを宣言せざるを得なかった。パンデミックということは、しばらくお手上げ状態だということです。

 しかし、致死率で見ると、SARSの11%やMERSの34%と比べると、今回の新型コロナウイルスは世界累計で見れば4%と低い(それでも季節性インフルエンザの0.1%よりは高い)。一般的に、感染力が強いウイルスほど致死率は低いのが特徴です。感染した動物や人間がすぐに死んでしまうと、次に違う動物や人間に感染する機会を失うことになるからです。今回の新型コロナウイルスからすれば、今のところ人間は理想的な宿主だということになります。

 終息宣言を出すには、ウイルスの基本再生産数を1以下にしなければなりません。そのために各国が封じ込めに躍起となっているわけですが、それ以外にもシャルル・ニコルの法則というのがあります。新型コロナウイルスに関しては、人間はまだ免疫がないわけです。でも、世界中に蔓延していけば人間は免疫をつけていくので、形としてワクチンを打ったのと同じになる。人類の75%が感染して免疫ができたとすれば、ウイルスの基本再生産数が3だとしても、3×0.25=0.75なので、基本再生産数は1以下になるという法則です」(塚本氏)

 基本再生産数というのは、感染者1人が新たに感染させる人数のこと。基本再生産数3というのは、1人が3人に感染させ、その1人がまた3人に感染させること。基本再生産数が1以下になれば感染者はそれ以上増えないので、終息したと見なせるのだ。

「SARSウイルスの人から人への感染は、発症前の患者からの感染例は一例もなかった。しかし、今回の新型コロナウイルスはちょっと違います。咳をしていなくても、潜伏期間中であっても感染しているからです。従来、コロナウイルスが通常の環境中で生きられるのは3時間というのが定説でした。ただ、強いコロナもいれば、弱いコロナもいて、今回のコロナウイルスがたまたま強いのかもしれません。

 今後は、いかに終息させるかです。シャルル・ニコルの法則は、狂犬病ワクチンを集団内の75%の犬が接種すれば、残り25%の犬は感染するかもしれませんが、集団内での拡大はなくなるというものですが、これは人間の場合にも当てはまります。新型コロナウイルスの基本再生産数が3だとした場合、75%までいかなくても、60%や65%の人が感染して免疫を持てば、感染は徐々に終息して、シャルル・ニコルの法則が当てはまるはずです。問題は、基本再生産数がクラスターごとに違うということです」(同)

インフルと新型コロナのウイルスの違い

 米国立衛生研究所が3月16日、新型コロナウイルスワクチンの人への臨床試験を開始したと発表した。しかし、まだ安全性を確かめる「第1相試験」なので、一般に使えるようになるには1年から1年半はかかる見通しだという。

「それまで力で抑え込むのか、ある程度人に蔓延させて免疫を持たせるのか。この判断は難しいでしょうね。基本再生産数がきちんとした計算できちんと求められるウイルスなのか、SARSのようなスーパースプレッダーがいるようなタイプのウイルスなのか、そこがまだ読めていないからです。基本再生産数が3以上であれば、病原性は無視して、感染力が高ければ高いほど、人から人に感染して免疫をつけていくことにはなります。

 問題は病原性です。軽症で済めばいいのですが、高齢者はかなりの数が犠牲になる可能性が高いので、自然に感染するのを待てとは、なかなか言えないですからね。インフルエンザウイルスは体からすぱっと抜けるんですが、コロナウイルスは免疫をかいくぐって、どこかで潜んでいる感じのウイルスなんですね。このウイルス自体の性質がわかるまでには、まだ時間がかかるのかなという感じですよね」(同)

 果たして、英国の“ギャンブル”は吉と出るのか、凶と出るのか。大きな賭けである。

(文=兜森衛)

【新型コロナ】英国の「集団免疫」は危険な賭けか?人間が“理想的な宿主”の理由のページです。ビジネスジャーナルは、ライフ、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!