飲食店の検索メディアとして、人々の間にすっかり定着した「食べログ」。この食べログに掲載された批評によって損害を受けたとして、北海道で飲食店を経営する会社が、掲載されている店に関する情報を削除するよう求めた裁判で5月31日、最高裁判所は店側の請求を退ける決定を出した。
店側は、食べログのユーザーから否定的な評価の内容を書き込まれたため、同サイトを運営するカカクコムに対して、店舗情報ページ自体の削除を求めて提訴していた。飲食店の情報をインターネットで調べる際、真っ先に食べログの口コミを見て参考にする人も多いだろう。強い影響力を持つ食べログに否定的な評価を書き込まれた場合、飲食店としては経営に大きなダメージを受けかねない。
今回の判決には、どのような意味があるのか。インターネットの法律問題に詳しい中野秀俊弁護士は次のように話す。
「今回、店側が求めたのは『否定的な書き込みをされない権利』です。飲食店にとっては、食べログでの評価で否定的な書き込みをされてしまうと経営に影響が出てしまうため、否定的な書き込みを削除してほしいと思うのは当然です」
しかし、裁判所はそのような店の要求を否定したのだ。1審の札幌地方裁判所は「サイト利用者の得られる情報が恣意的に制限されることになってしまうので、(店側の請求は)到底認められない」と判断している。さらに2審の札幌高等裁判所では、「飲食店を経営する以上、社会的に妥当な『口コミ』であれば損失があっても受け入れるべき」とまで述べている。
今回、最高裁は1審、2審の判決を不服とする店側の上告を受理しなかった。「内容的に妥当なものであれば、店側の『否定的な書き込みをされない権利』は認められないということが確定」(同)したという判断だ。
名誉毀損に該当するような書き込みは削除可能か
では、店側はどんな内容の書き込みをされても、何も請求できないのだろうか。中野弁護士は、「今回の裁判で、店側が食べログ側に求めたのは『否定的な書き込み部分の削除』ではなく、『店舗情報ページすべての削除』だったことが、請求が認められなかった理由ではないか」と分析する。
「否定的な書き込み部分だけでなく、表現として問題にならない部分まで削除を求めていることになります。このような請求を認めてしまうと、ネット上で自由な表現ができなくなってしまい、憲法21条1項が定める『表現の自由』に抵触してしまいます」(同)