しかし、この権利行使の理由に対して、世界の誰も、私に異議を申し立てることはできません。なぜなら、私は、私の著作物に関する絶対的な支配者であり、独裁者であるからです。
●初音ミク曲をアレンジするのは違法?
さて、このように創作者は、創作した著作物に対して、絶対的な権利を持つのですが、それでは、その著作物をベースとして生まれた新しい別の著作物(いわゆる、「初音ミク」の2次著作物など)は、一体どうなるかを考えてみましょう。
2つの例を挙げて説明してみましょう。
【例1】
ボカロPさんがつくった初音ミクの声で歌う楽曲「クミクミしてあげる(×ミクミクしてあげる)」をベースとして、オーケストラの作曲家Bさんが、この曲をまったくイメージの異なる交響曲のコンテンツ「クミクミ交響曲」として創作した場合
【例2】
ボカロPさんがつくった初音ミクの声で歌う楽曲「クミクミしてあげる」をベースとして、絵師Cさんが、その楽曲「クミクミしてあげる」に初音ミクの動画を付与した映画(=音楽+映像)のコンテンツ「クミクミ踊り」を創作した場合。
まず、創作した人が、原始的に著作権者になりますので、「クミクミ交響曲」はオーケストラの作曲家Bさんに権利があり、「クミクミ踊り」については絵師Cさんに権利があることには、まったく疑いがありません。
では、ここで問題です。
「作曲家Bさんも、絵師Cさんも、ボカロPさんの『クミクミしてあげる』を使っているのに、ボカロPさんには、何の利益もないのか?」
わかりやすく、かつ、できるだけエゲつなく表現してみましょう。
作曲家Bさんや、絵師Cさんが、「クミクミ交響曲」「クミクミ踊り」で儲かってもう笑いが止まらない時、ボカロPさんは、指を加えて、それを見ているしかないのか、ということです。
著作権法は、このような「ある著作物をベースとして生まれた新しい別の著作物」についても、ボカロPさんにも、権利があると規定しています(著作権法第27、28条)。 さて、ここで「ある著作物をベースとして生まれた新しい別の著作物」というものを、以下、「二次的著作物」(著作権法第2条1項11号)と呼ぶことにします。
つまり、ボカロPさんには、二次的著作物に関して、何もできないどころか、ものすごい権力が保障されています。
どのくらいものすごいかについて、ボカロPさんができることを例として挙げてみましょう。
・「クミクミ交響曲」「クミクミ踊り」の公開はやめてください。理由は、私があなたの作品が気に入らないからです。
・「クミクミ踊り」をYouTubeになら流してもいいけど、ニコ動には流さないでください。私が、ニコ動の会員ではないからです。
・利益の半分を私にください。びた一文まかりません。
というように、他人の創作した二次的著作物についても、自分でつくった著作物と同じように「絶対的な支配者」になれると規定しているのです。