7月31日の投開票に向けて、選挙戦の真っ只中である東京都知事選挙。野党統一候補として出馬したジャーナリストの鳥越俊太郎氏は、7月18日、東京・巣鴨で街頭演説を行ったが、約40秒という短さで「40年来の友人」である歌手の森進一にバトンタッチ。
森は、「東京都民の1人として、高齢者として、鳥越さんに託したい」などと応援演説を行い、聴衆からの「歌って」というリクエストに応えるかたちで、代表曲「襟裳岬」のサビを披露する場面もあった。
その後、鳥越氏は足早に渋谷に移動、その手短すぎる選挙運動や政策にまったく言及しない姿勢に聴衆から不満や怒りの声が挙がったが、それはさておき、この件で公職選挙法違反に該当する可能性があるという。弁護士法人ALG&Associates弁護士の山室裕幸氏は、以下のように語る。
「公職選挙法は、日本国憲法の精神に則り、選挙が有権者の自由な意思によって公明かつ適正に行われることを確保し、それによって民主政治の健全な発達を実現すること等を目的とした法律です。そして、当然のことながら、候補者の能力や政策の優劣を国民が判断して代表者を選出する選挙こそが公正な選挙であって、候補者の資力によって当落が決するような選挙であってはいけません。
そのため、公正な選挙を実現すべく、同法は候補者等が有権者に対してなんらかの利益を供与する行為等について、きわめて厳しい制約を設けています。
今回の件ですが、プロの歌手である森氏の歌というものは、通常は高いお金を払って聴きに行くものですから、客観的な経済的価値が認められる無形の財産であるといえます。そのため、候補者等が聴衆に対して無償で森氏の歌を聴く機会を与えるということは、聴衆に対して物品を提供する行為と実質的に同義であるといえます。
したがって、鳥越氏の行為は同法における『寄附』や『財産上の利益の供与』に該当すると解釈することができるため、候補者等が選挙区内にある者に対し、名義を問わず寄附をすることを禁止している同法第199条の2第1項(公職の候補者等の寄附の禁止)や、候補者等が当選等を目的として有権者に財産上の利益を供与することなどを買収罪として規定している同法第221条第1項第1号に抵触する可能性が十分に認められると考えられます。
なお、応援演説において歌を歌うという行為は、その態様によってではありますが、選挙運動のために気勢を張る行為を禁止する同法140条に抵触する場合もあります」