東京都知事選挙戦は、7月31日の投開票に向けて終盤に入った。野党統一候補のジャーナリスト・鳥越俊太郎氏は、出馬表明当初は知名度の高さから最有力ともいわれたが、ここにきて急速に支持率が下降している。
その要因のひとつは、政策の弱さだ。準備期間が短かったことが影響し、告示直後には「これから検討する」と述べていたが、選挙戦が進むに連れて徐々に政策を固めてきた。しかし、どの政策も漠然とした感が否めない。「2020年の東京五輪を成功させる」「都民の不安を解消する」「安心・安全なまちづくりをする」「正社員化を促進する」と公約を掲げているが、鳥越氏がもっとも力を入れたい政策がなんなのか、わかりにくい。憲法改正反対、反安倍晋三政権を掲げるなど、都知事ではなく国政に打って出るべきではないかとの声も多い。
告示後、テレビ番組に出て真っ先に掲げた公約は「がん検診受診率を100%にする」というものだった。確かに、現時点で東京都民のがん検診受診率は50%に満たない。だが、都民ががん検診を「受けたいのに受けられない」という状況ではないのではないか。「誰もががん検診を受けられるようにしてほしい」という要望がどれほどあるのかわからないが、この公約が選挙戦に役立つとは考えにくい。
また、がん検診には、有効性に疑問を持たれている検査も多く、なかには受けないほうがいいと指摘されている検査すらある。そんななか、自らの意思で受診しない人も少なからずいると考えられるが、「受診率100%」は、そのような意思を無視して強制的に受診させるということなのだろうか。
さらに、がん検診率が高まれば、高額な医療費に結びつくおそれもある。鳥越氏は「誰でも先進医療を受けられるようにする」と述べているが、がん検診や先進医療を安易に普及させれば財政を破綻させることも考えられる。たとえば、国立がん研究センターが運営するがん予防・検診研究センターで検診を受けた場合、総合検診は男性で約10万円、女性で約14万円かかる。これは保険が適用されないため高額に思えるが、無料もしくは低額で受診できるがん検診は、その分を保険料や税金で負担するということだ。受診率100%は、それだけ財政負担が増えることを意味する。
ちなみに国の方針としては、12年6月に策定された「がん対策推進基本計画」を見ると、「5年以内に受診率50%(胃、肺、大腸は当面40%)」を目標としている。自身ががんを患った経験から、がんに対する補償を厚くしたいという理念はわかるが、深く検討することなく公約を掲げているように思えてならない。