小池百合子東京都知事はエジプト・カイロ大学を卒業したのか否か。都議会自民党や週刊誌を中心に、小池氏の学歴詐称疑惑を検証する動きが加速する中、駐日エジプト大使館は9日、Facebookの公式アカウントで、「カイロ大は小池知事が卒業したことを証明する」との異例の声明を発表した。法曹関係者からは、「仮に小池氏の卒業が嘘であっても、卒業に認定を行う大学がそういう姿勢を堅持しているのであれば、立証は不可能ではないのか」との声も聞かれる 。ニュースサイトJBpressは12日、『カイロ大「小池氏は卒業生」声明の正しい読み解き方』と題する記事で、カイロ大OBのジャーナリスト浅川芳裕氏の指摘を紹介。エジプト軍部と小池氏の危うい関係に警鐘を鳴らしている。
浅川氏は同記事で、以下のようにカイロ大の実情を指摘している。
「カイロ大学の権力を完全に掌握しているのは軍閥独裁国家エジプトの軍部であり、泣く子も黙る情報部です。大学といえば“学びの園”“学問の自由”といった平和な生ぬるいイメージから理解しようとすると、本質を見誤ります」
そのうえで、浅川氏は1952年の軍事クーデター「ナセル革命」を紹介。カイロ大の知識人を軍部の支配下に置くためキャンパスに革命親衛隊を送り込んだことや、それに反対する学生や教員を弾圧してきたことを明らかにした。また、ナセル革命の中心人物の1人だったのはムハンマド・アブドゥルカーデル・ハーテム氏(故人)が小池氏のカイロ大時代の後ろ盾の1人だったとも指摘し、この問題の本質を次のように述べた。
「小池氏はこれまでハーテム人脈の権力構造により、特別待遇を受けてきた。その恩に加え、小池氏は、学歴詐称疑惑の渦中で迎える都知事選の直前、エジプトの軍閥から助け舟を出された格好です。エジプト上層部・カイロ大学側にしても、何のメリットもなければ、いくらハーテム人脈といっても長年、わざわざ小池氏を擁護する理由はありません。これは、日本の国益にとって、より本質的な問題といえます」
外務省も及び腰か
実際、小池氏がエジプトの軍部と関係があったとして、日本政府はどのような対応がとれるのか。外務省関係者は次のように話す。
「今回の学歴詐称疑惑のような事例は、発展途上国の大学ではよくあることです。まず国内の大学を押さえるのは、開発独裁の国家が行うもっとも初歩的な統制の一つです。あくまで外交的な見地からの一般論ですが、いろいろなメディアで指摘されているように、小池さんがエジプト政府の強力な支援を受けていることは、今回の駐日エジプト大使館の声明から見る限り、まちがいないでしょう。
軍部の影響が強いエジプトであれば、『政府の強力な後ろ盾』とはナセル時代から続く強力な現地軍部とのコネクションであることも容易に想像ができます。では、その軍部を日本政府がどうにかすることができるのか。仮に、今回の一件で東京地検などが強引な捜査などを行えば、明確な内政干渉にあたる可能性があります。
しかもエジプトは日本にとってかなり重要な国家です。スエズ運河と紅海というシーレーン上の要地を押さえているほか、同国は中東のみならず、アフリカの玄関口に立地し、アラブ諸国やアフリカ連合にも大きな発言力を持っています。
そして日本のODAの中東・アフリカ戦略の重要な起点の一つでもあります。アフリカでは中国がさまざまな開発援助をテコに、各国政府の懐柔を進めています。日本が戦後70年にわたってアフリカ諸国に行ってきたODAの影響力を覆すことこそ、中国の戦略上の重要な目標だと考えられています。現状、今回のような問題で親日的な態度を崩していないエジプトを無駄に刺激すれば、同国やその影響下にある国家が中国に接近することは目に見えており、それは日本の国策として適切ではないと思います」
エジプト、カイロ大とつながりの強い創価学会
一方、自民党関係者はカイロ大学やエジプト政府に関する政府内の微妙な空気感を指摘する。
「エジプト政府とカイロ大学という言葉で思い出されるのは、創価学会インターナショナル(SGI)との関係性です。創価学会名誉会長の池田大作氏は1962年、トルコ、イラン、イラク、エジプトなどを初訪問しました。その後、カイロ大学やカイロアメリカン大学などのコネクションを活用し、オイルショック時には日本政府の代理として中東外交に影響を与えたことなどが、複数の著作で確認できます。1992年にエジプトに再訪問した際は、ムバラク大統領とも会談しています。
実際、学会とカイロ大との関係は良好です。創価大からは定期的にカイロ大に留学生を派遣していますし、国連本部の会議などでもSGI所属のカイロ大生をよく見かけます。創価大はまじめな学生さんが多いので、小池氏のような詐称疑惑はないと思いますが、小池氏を降ろすだけのために、無邪気にカイロ大を批判すれば何が出てくるかわからない。与党の連携上、好ましくないこともでてくるかもしれない。
自民党東京都連はなんとかして小池氏のクビをとろうと躍起みたいですが、党上層部は『もう、この話はいいんじゃないか』という空気になっていますよ」
もはや一連の詐称疑惑は小池氏個人の問題の枠を超えつつある。大学でしっかり勉強したのかどうかは別として、多方面に不可解なコネクションを築きあげ、ある種の“不可侵性”を確保した手腕は“政界の渡り鳥”の面目躍如ということなのだろうか。
(文=編集部)