「『警官がデモ隊を殴り殺した』などという噂を広めた人々は香港国家安全保障法(国安法)に違反しているとみなされる」――。中国国務院香港マカオ事務弁公室の張暁明副主任は1日、記者会見でそう語った。香港の非営利英語ニュースサイト「Hong Kong Free Press」が2日、記事『Spreading rumours of police killing protesters at Prince Edward MTR may breach Hong Kong security law – Beijing official』で報じた。人権弾圧や言論出版の自由のはく奪の懸念が広まっている国安法に、また一つ新しい懸念が明らかになった。
同記事によると張副主任は、「昨年8月に香港プリンスエドワード駅で警察が市民を殴り殺した」との噂が広がった件を例示し、「(噂を広げるという)この種の行為は、警察に対するあらゆる社会的不満を何もないところに集中させる。悪意と深刻な結果を伴う中央政府を標的とする行為には法的結果がもたらされる可能性がある」と述べたという。
国家安全保障法第29条で、香港政府に対して憎悪を誘発することは禁止しされている。この見解は、「警官がデモ隊を殺害したかもしれない」という未確認情報を発しただけでも、同法違反に問われる可能性があるというのだ。
AFP通信などによると、昨年8月31日、同駅では列車内やホームにいたデモ隊を治安部隊が警棒やトウガラシスプレーなど使い、制圧した。その際、数十人が負傷した。死者が出たという噂は医療関係者やジャーナリストが駅から追い出された後に広まった。
全国紙記者「死者が出たかどうか正確に確認するのはメディアですら難しい」
海外での紛争取材の経験のある全国紙記者は次のように話す。
「混沌とした警官隊とデモ隊との衝突現場で、正確な情報を瞬時に把握するのは不可能です。これまでのように現場にジャーナリストや医療関係者などの目撃者がいれば、追跡取材や事実確認ができますが、事が終わった後で、『死者が出たのかどうか』をファクトチェックしようとすれば非常に難しくなるでしょうね。当局が事実を歪曲することなく伝えているのなら問題はないでしょうが、今後、中国当局はどうなのでしょうか。
また国安法の最大の懸念は、違反となる行為が香港領内での発言や報道にとどまらない可能性が高いことです。つまり日本で行われた公の言動も、中国政府が主張する『中央政府を標的とする悪意ある噂を広げた』と認定されれば、中国国内に入った瞬間に拘束される可能性があるということです。中国に今後、一回も行かないということはマスコミ業界にいる限り、不可能です。リスクが大きすぎて、国際畑の編集幹部は頭を抱えているみたいですね。今後は何が起こっても、基本的に中国政府の公式発表か、香港当局の確認を取った報道しかできなくなるのではないかと不安です」
香港の国安法の懸念はどこまで広がるのか。
(文=編集部)