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渡邉哲也「よくわかる経済のしくみ」

トランプの「外国排斥主義」が世界に蔓延…中国の発展で食糧・資源の世界的争奪戦勃発か

文=渡邉哲也/経済評論家

 新興国では、資源による収入をあてにするかたちで公共事業を行い、ハコモノをつくったりインフラを整備したりしてきた。しかし、資源価格の下落によって、その根拠となる収入が減ってしまったわけだ。

 個人レベルでいえば、サラリーマンの家庭で毎月40万円の収入が保証されていたため月15万円の住宅ローンを組んでいたが、会社が倒産して、来月からはどうやっても10万円しか収入がなくなってしまったようなものだ。貯蓄などを考慮しない場合、その時点で15万円のローンは払えなくなるわけだが、同じことが国家レベルでも起きかねないわけである。

 原油だけでなく、今は鉄鉱石など資源価格全般が下がっているため、特に中南米の国々が苦しくなっている。そういう背景と構図を見ていくと、今はいろいろな意味での拡大路線が限界に達しているということがいえるだろう。そして、それこそが、マルサスの『人口論』が示すところなのである。

貧しい国が豊かになると戦争が起きる?

 新興国の成長や人口増加に食糧や資源が追いつかないと、どうなるか。当然、先進国と新興国の間で限られたパイの奪い合いが起きるわけだが、既得権益者である先進国は、新興国に既存の利益を奪われることを嫌がる。一方、新興国は経済成長を続けない限り、ファイナンスが成立しないという事情がある。簡略化して説明すると、国内総生産(GDP)成長率8%の国であれば、年間利回り8%以下で資金を調達していれば利息を支払い続けることができる。

 しかし、経済が失速してGDP成長率が5%になると、その支払いは不可能になり、ファイナンスが成立しなくなるわけだ。この流れが、今は新興国全体に起きつつある。

 また、先進国は権益を守らざるを得ないため、こうした状況下では、どうしても政策が内向きになる。もっといえば、排斥の動きが出てくる。アメリカにおいては、大統領選挙の共和党候補であるドナルド・トランプ氏の主張がその典型であり、中国の鉄鋼製品に対する反ダンピング関税なども、その文脈である。

 フランスではワインをはじめとした農産物を保護する傾向が強いが、関税によって、これまで許容していた安価な産品の流入を止めるというのは、実質的な排除と同義である。

 こうした保護貿易政策は、自国民を守るための一番手っ取り早い方法ともいえるが、正しいか否かは別にして、今は世界中がそちらの方向に走らざるを得ない状況になっている。

渡邉哲也/経済評論家

渡邉哲也/経済評論家

作家・経済評論家。1969年生まれ。
日本大学法学部経営法学科卒業。貿易会社に勤務し独立。複数の企業を経営、内外の政治経済のリサーチや分析に定評があり、政策立案の支援、雑誌の企画監修、テレビ出演等幅広く活動しベストセラー多数、専門は国際経済から金融、経済安全保障まで多岐にわたり、100作以上の著作を刊行している。

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