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江川紹子の「事件ウオッチ」第64回

もはや理想主義者による自己満足の結晶!? 異論噴出の【日弁連・死刑廃止宣言】の現実離れ度

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 それどころか、日弁連内部でも意見が割れている。

 日弁連は、弁護士として活動するためには会員登録しなければならない強制加入団体で、このような宣言採択に反対だから脱会する、というわけにはいかない。犯罪被害者支援を行っている弁護士たちからは、「一方の立場から宣言を採択することは、個々の弁護士の思想・良心の自由に対する侵害である」という批判が出ている。

 また、人権大会は総会と異なり、委任状による議決権の代理行使を認めておらず、出席者しか意思表示はできない。福井市の会場に足を運んだ弁護士は、全国約37,000人のうち786人。そのうち賛成者は546人。これで日弁連としての方針を決めてしまうことへの疑問も提起された。

現実を踏まえた議論を

 日弁連は2011年に高松市で行われた人権大会において、「死刑制度についての全社会的議論を呼びかける宣言」を行い、執行の基準や手続などの情報公開、裁判員裁判における死刑判決の全員一致制や死刑囚の待遇改善などを求めた。だが、それは未だ成果を上げず、死刑についての全社会的議論がなされているとも言い難い。この現状を、「死刑廃止」という極論を打ち出せば打破できるとでも、考えたのだろうか。だとしたら、愚かなことである。

 自分たちの正義と理想だけを高らかにうたい上げ、それに基づいた革命的変革を迫る「宣言」など、現実を動かす力になるとは思えないからだ。

 私自身は、死刑囚の待遇、絞首刑という執行方法の是非、冤罪を防ぐための対策、その他、当面は死刑を前提にしながらも、それに伴う問題を少しでも改善していくための、現実を踏まえた議論が必要だと思っている。たとえば、裁判員の負担軽減や慎重審理、刑の公平性などを考え、一審の裁判員裁判が死刑判決だった場合には、職業裁判官による控訴審を経なければ死刑を確定できないようにする。あるいは、死刑制度に執行猶予を導入し、反省や更生などの状況によって、無期刑に減刑する道を開く。こういったことを、もっと議論していくべきだと考えている。

 けれども、「4年後の死刑廃止」を打ち出した日弁連には、そうした議論は期待できない。

 日弁連は、取り調べの可視化を実現し、刑事司法の制度を改革していくうえで、大きな役割を果たした。その際、多くの弁護士が実務者としての経験から、実際の事件を通して国民の前に問題を提起し、理解を求め、それを地道に積み重ねたことが大きな力になった。さらに、可視化を主導した弁護士たちは、理念を異にする学者や警察・法務官僚などとも、具体的な議論を積み重ね、現実を変えるための努力を重ねた。

 一方、提案者の「理念」や「正義」が先行する今回の宣言は、実務者として現実を変えるための提言ではなく、思想家としての作品に見える。しかも、イデオローグとしての説得力にも乏しい。もはや、死刑廃止論者の自己満足の結晶とでも言うしかないのではないのか。

 刑罰のあり方に関して、現実的な政策提言を行い、現実を少しでも改善していくロビイストの座から、日弁連は降りた、ということなのだろう。あるいは、ハナからそんな役割は考えていなかったのだろうか。

 極めて残念である。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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