本連載前回記事で、ドイツ銀行の信用不安およびヨーロッパの銀行全般が抱える構造的な脆弱性について論じたが、今回も引き続き、この問題について見ていきたい。
前回記事では、会計基準の変更や自己資本比率規制の厳格化、そしてハイブリッド証券の一種である「CoCo債」などを通じて、ドイツ銀行が危機に陥った経緯を見てきた。
しかし、ヨーロッパの銀行は、ほかにも問題を抱えている。日本やアメリカとの最大の違いでもあるが、「銀証分離」がなされていないことだ。アメリカでは、世界恐慌後の1933年に「グラス・スティーガル法」が制定され、商業銀行と投資銀行(証券)が分離することとなった。日本も、アメリカにならうかたちで商業銀行と証券会社は分離されてきた。
しかし、ヨーロッパには銀証分離を定める法律はなく、銀行と証券、それに保険などが一体となった総合金融グループが存在する。そのため、一部門が赤字になれば、その影響が他部門に波及しやすく、被害が広範囲に及びやすいという弊害があるのだ。
自ら問題を深刻化させるメルケル首相
国際通貨基金(IMF)は、ドイツ銀行の一連の問題について「事業モデルが今後も実行可能であると投資家に説得する必要がある」と指摘しているが、これは、「不良債権の処理を行い、安定した収益モデルをつくる」ということと同義だろう。
しかし、現実的に、今のドイツ銀行に継続的な事業モデルを構築することは不可能に近く、「大きすぎてつぶせない」という問題もある。そのため、不良債権を買い取る「バッドバンク」と不良債権を切り離す「グッドバンク」に分割し、さらには銀証分離を行う必要があるのではないだろうか。
つまり、一種の「解体」であるが、それには国の関与が必要不可欠だ。そのような答えが見えてはいるものの、ドイツ政府は救済を否定している。いまだに判断できないアンゲラ・メルケル首相が、自ら問題を深刻化させているといえるだろう。
14年、フランスはメガバンクのBNPパリバがアメリカ司法省から89億ドルの罰金を科されたとき、ゼネラル・エレクトリック(GE)による電力会社のアルストム買収を交渉のカードに利用したといわれている。しかし、現在のドイツ政府にそんな芸当が可能とは思えず、ドイツ側にできるのは「世界の金融市場に波及するリスク」というカードをチラつかせることぐらいだろう。
(文=渡邉哲也/経済評論家)
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