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接骨院、業界全体が瀕死の状況…保険の不正請求が横行、コロナ禍で真っ当な経営は困難か

文=編集部
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「Getty Images」より

 東京を中心に全国で感染者が爆増する新型コロナウイルスにより、多くの業界が苦難に直面している。

 緊急事態宣言下では、飲食店やナイトクラブ、スポーツジムといった業態でのクラスター(集団感染)が相次ぎ、感染者が多い都道府県では休業要請に従い、一時的に休業する店舗も目立った。これらの業態では、行政から休業補償金や協力金を受給して急場を凌いだ。感染が落ち着きを見せたことで宣言が解除されたが、あらゆる業種で営業が再開されると、再び感染が拡大している。

 そんななか、メデイアで報じられることは少ないが、来客は激減しているにもかかわらず休業補償の対象外とされ、経営難から閉店を余儀なくされる業態も存在する。その代表格ともいえるのが、接骨院である。

 全国柔整鍼灸協同組合のHPによれば、接骨院は休業要請の対象外となっている。つまり、雇用調整助成金以外の、休業に伴う補償金を受けることができない業態というわけだ。接骨院業界では、激減する患者数に対して有効な手段を見いだせないまま、閉店に追い込まれている店舗が目立ち始めている。関西で10店舗近い接骨院を展開する経営者が、現状をこう嘆く。

「接骨院を訪れるお客さんの特徴として、保険の適応を受けてマッサージ店よりも安価に施術を受けたいという層に支えられているのが現状です。裏を返すと、必ずしも施術が必要な方の割合というのは、決して多くないといえます。そういう方々は、新型コロナウイルスが感染拡大するなかで、わざわざ来店しなくなります。正確な数値ではありませんが、4~5割近くまで来客数が落ち込んでいる店舗もあります。

 整体業界のビジネスモデルとして、大型店舗でも1店舗当たりの売り上げは天井が見えやすいのが特徴です。月々の売り上げの幅は少なく、良くも悪くも安定していました。それが、来店者数の激減により人件費や維持費用のコストがかさみ、休業や閉店を余儀なくされる店が多発しているんです」

不正請求が蔓延する接骨院業界

 接骨院にとって売り上げの大部分は、保険により補われる。だが、昔から同業界で問題視されているのが、施術回数や負傷部位を偽り、健康保険組合に療養費を請求する、いわゆる「不正請求」が行われてきたことだ。健康保険組合連合会(健保連)の調査によると、2017~18年の2年間で、療養費の不正請求対して「不支給」となった件数は、約3万8500件にも上るという。これはあくまで不支給の件数であり、実際の不正請求の総数は、この何倍にも及ぶことは容易に想像がつく。

 そのなかでももっとも多いといわれる不正が、施術箇所の「部位数水増し」と呼ばれるものだ。たとえば、患者が「腰が痛い」と訴えたとしても、腰だけが原因ではなく、ほかの箇所も治療が必要だという誘導がしやすく、具体的な治療点数は、患者は気づきにくい。つまり、接骨院側の視点からすると、容易に水増しができるというわけだ。前出の経営者が、こう続ける。

「あくまで個人的な感覚ですが、もともと、7割近い接骨院が大なり小なり水増し請求はしていると思います。それほど水増し請求は難しいことではないので。ただ、残りの3割の真面目にやっていている経営者も、コロナ禍で苦渋の決断として、そうせざるを得ない状況まで追い込まれています。実際に若いオーナーからは、『もうもちません』という相談を寄せられたこともあります。高齢者の来店頻度は半分近くまで減っていますから、売り上げがたたないんです。

 同じことは美容室にもいえると思いますが、もはや国や行政からの協力金がないと存続できないという院も珍しくありません。ごく一部の県は協力金を出しているようですが、接骨院や美容室のように膨大な数の店舗すべてに補償をすると財源が持たないのも理解できます。ただ、接骨院を経営する側も、スタッフの生活を守らないといけないという事情があります。ある意味では、水増し請求も生きるための必要悪ととらえる経営者が出てきても仕方ない状況といえるかもしれません」

 この経営者によれば、部位請求の平均は2.5カ所程度だというが、今年に限ればこの数字が増える可能性が高いとも指摘する。

 業界のなかでも特に状況が深刻なのは、大都市圏だ。4月には、全国に178店舗を展開していた業界最大手の「MJGメディカルジャパングループ」が自己破産を申請し、現在は破産手続きが行われている。MJGグループに限らず、多くの接骨院が苦境に陥っているのが現状だ。

 MJGグループは、部位水増し請求が慢性的に行われていたこと、70万円を超えるような高額の「施術回数券」の販売促進を従業員に強要していたことなどを従業員が告発し、物議を醸した。倒産前にMJGグループの接骨院に勤務していた柔道整復師に話を聞いた。

「MJGは、高齢者を狙い撃ちして、体の悪くない箇所であっても患者の不安を煽り、回数券を売りつけるなど、悪徳かつインチキに近い商法を行っていました。多くの従業員が1年ともたずに退職していったのも、そういう施術方法を会社から強要されたことに嫌気がさしたからです。

 一方で、部位水増しや治療箇所のごまかしなどは、どこの院でも行われているので、業界に長くいる人には、ある程度の“慣れ”はあります。MJGの場合は、度を越して酷かったといえます。倒産後に別の院に転職した人もいますが、『この状況下で、すべて正確に申請していたら、もう潰れています』と話していました。『赤信号みんなで渡れば怖くない』というような精神が根づいている業界の体質も問題ですが、行政からの助け舟がないことに対しても憤りは感じています」(MJGの元従業員)

 根強く残る業界の悪習について看過することはできないが、業界で働く施術師たちの訴えは切実であり、コロナ禍に耐えうる体力はほとんど残されていないのも現実なのだろう。

(文=編集部)

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