農研機構の報告に添えられている系統樹を参考に考えると、今回のウイルスがどのようにして日本にやってきたかを推測することができる。15年に中国広東省に存在していた高病原性をもつH5N6型ウイルスが、別のタイプの鳥インフルエンザ・ウイルスとゲノム断片の1本を交換して新しい高病原性H5N6型ウイルスに変異した。このウイルスに感染した渡り鳥が夏の期間、シベリア方面に移動。冬の到来とともに南下し、韓国と日本に飛来して、野鳥にウイルスを感染させたと考えられる。
日本に飛来した渡り鳥の1つのグループは新潟県の野鳥にウイルスを感染させた。別のグループは出水市に飛来。また、青森県に飛来したグループも野鳥にウイルスを感染させたのであろう。日本各地の野鳥に広まっている他のウイルスも、同じようにして日本にもたらされたと考えられる。
人間に感染する高病原性ウイルスに変身する可能性も
インフルエンザ・ウイルスは変異がはげしく、ゲノム断片の交換やゲノム配列の突然変異によって、次々と新しいウイルスが登場する。その中から高病原性のウイルスも誕生する。H5N6型の鳥インフルエンザ・ウイルスはすでに1975年に知られていたが、高病原性をもつH5N6型が初めて報告されたのは14年3月、ラオスでのことであった。その後、このウイルスは東アジアおよび東南アジアに広まっている。
高病原性鳥インフルエンザ・ウイルスの最初の報告例は、1996年のことであった。H5N1型で、その後、大流行した。興味深いことに、2013年以降、新しい高病原性鳥インフルエンザ・ウイルスが次々と出現している。13年3月にH7N9型が出現。同年12月にH10N8型が出現。14年3月にはH5N6型、10月にはH5N3型が報告されている。
このような高病原性鳥インフルエンザ・ウイルスは鳥の間で広まるウイルスである。人間との間には「種の壁」があるので、一度に大量のウイルスにさらされない限り、人間が感染することはない。また、人間と人間の間で感染をくり返すこともない。しかしながら、こうしたウイルスは人間のインフルエンザ・ウイルスに変異する可能性がある。
インフルエンザ・ウイルスはもともとカモなどの水鳥がもっているウイルスである。カモなどに対しては病原性を発揮しないが、その他の野鳥や、ニワトリやアヒルなどの家禽に感染すると病原性を発揮する。カモなどが生息している同じ場所にブタが飼育されていると、ブタの体内で、鳥のウイルスと豚のウイルス、さらに人間のウイルスが混じり合い、人間に感染するウイルスが出現することがある。ブタは鳥と人間のインフルエンザ・ウイルスにも感染するからである。