米英が主導する20世紀型秩序の崩壊
――トランプ大統領が初会談の相手に選んだのは、イギリスのテリーザ・メイ首相でした。
財部 これは、象徴的ですよね。そもそも自由主義・民主主義の価値観をアメリカと共有してきたのはイギリスです。アングロサクソンのこの2国が移民排斥に傾き、EU(ヨーロッパ連合)からの離脱を決め、トランプ氏を大統領に選んだことは、20世紀の「世界の秩序」の終焉以外のなにものでもありません。
――イギリスの国民投票では、排斥を訴えた移民政策も物議を醸しましたが、実際は支持につながりました。
財部 米英が呼応し、そのほかのヨーロッパ各国でも、「移民反対」を叫ぶ右派勢力が勢いを増している現状を見て、第二次世界大戦前の状況と重ねて不安視する声も聞こえますが、物事を単純化しすぎるのもどうかと思います。
EU域内の安い労働力や有能な人材がイギリスに集中したことと、シリアなどの難民受け入れの問題とは、根本的に話が違います。また、EU加盟国もそれぞれに事情が違います。イギリスが離脱を決める前にも、スペインやポルトガルで同様の動きがあったように、EUという仕組み自体が限界に達しているということです。
アメリカ、トランプ政権で3~4%の経済成長か
――移民を受け入れていない日本では、そうした状況や感覚がなかなかわかりません。
財部 まったく移民を受け入れていない日本が、移民問題に直面している米英の選択に四の五の言う資格があるとは思えません。移民問題から遠く離れた高みに立って批判するのは、いかがなものでしょうか。トランプ大統領誕生でもがき苦しむアメリカや、EUという単一市場から抜けなければならなくなったイギリスの行く末を、大局的に、リアリティを持って、しばらくは見守っていくよりほかありません。
――トランプ政権が日本に及ぼす影響は、どのように見ていますか。
財部 アメリカの景気は、そのまま日本の景気に影響します。アメリカは、これまでの成長の限界を破って3~4%の経済成長を達成する可能性が高いと思います。減税、公共投資、さらには製造業のアメリカ回帰、そして海外からの対米投資の増加。トランプ大統領が目指す経済政策が実現すれば、アメリカの経済成長は間違いありません。それは、日本企業にとってもプラスに働くと思います。
ただ不透明な要因も少なくありません。アメリカの金利引き上げのペースがどうなるのか、トランプ政権がどこまでドル高(円安)を容認するのか、などによっても状況は変わってきます。NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しも、日本企業には重大な影響をもたらします。これから打ち出される具体的な政策を、丹念に、冷静に見ていきたいものです。
(構成=石丸かずみ/ノンフィクションライター)