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米山秀隆「不動産の真実」

40年間も成長管理した「理想のまち」…全住宅が駅徒歩10分、保育所から老人ホームまで

文=米山秀隆/富士通総研主席研究員

 人口減少に伴い、各地でまちの「スポンジ化」が進行している。スポンジ化とは、まちの内部において、小さな穴が開くように空き家や空き地が点在していく現象である。日本では高度成長期以降、人口増加に対応するため、ニュータウンをはじめ新たなまちが次々と造成された。しかしこうしたまちは、一定の年月がたつと一気に高齢化し、スポンジ化が進行するのが避けられない。

 人口増加に対応するため当時は必要だったとはいえ、今になって考えれば、一気に開発して一気に住民を入れるというのは、まちづくりとしては、まずいやり方だったといえる。こうしたまちづくりは、まちを造成する開発業者の側からいえば、分譲したら終わりで、その後は関与しない「分譲撤退型」であった。

 これに対し、株式会社山万が開発した佐倉市ユーカリが丘は、持続的なまちづくりに取り組んでいる事例として以前から知られているが、スポンジ化を招かないまちづくりとして、今、改めて注目すべきと考えられる。ユーカリが丘は分譲撤退型ではなく、長期的にまちを成長させ、新陳代謝を図っていく「成長管理型」のコンセプトに基づいて開発されてきた。

少しずつ開発していくという考え方

 山万は現在はデベロッパーであるが、もともとは繊維問屋で、担保でとった横須賀の土地を開発したことを契機にデベロッパーに移行した。山万が手がけた最初のまちづくり事業である「湘南ハイランド」は、分譲撤退型の開発にとどまり、本当のまちづくりをやり切れなかったとの思いが募った。繊維業界では、得意先とはとことん付き合うのが当たり前であるが、造成して売るだけでは理想のまちづくりはできないと感じた。

 ユーカリが丘は、1971年から土地買収に着手した。まずは、テニスのラケット状に山万ユーカリが丘線という新交通システムを整備した。まだ誰も住んでいない段階での鉄道の敷設は、成長管理していくための先行投資と位置づけられた。

 ユーカリが丘線は6駅を14分ほどで結んでおり、その外側を順番に開発していった。ユーカリが丘駅周辺に超高層マンションや商業施設を集積させ、そのほかの駅周辺には中高層マンションや利便施設を配置した。すべての駅から徒歩10分の範囲で住宅地を平面開発した。住宅地には高い建物や大きな商業施設はつくらず、緑豊かな閑静な住宅地を形成した。

 第1期開発の事業許可は77年、第2期は87年、その後、2002年、08年に許可を得て4回に分けて開発が行われた。一斉に分譲して、その後、急速にまちが衰退していくことを避けるため、年間200戸の定量分譲とすることとした(タワーマンション分譲の場合は300戸近くの場合もあった)。

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

米山秀隆/住宅・土地アナリスト

1986年筑波大学第三学群社会工学類卒業。1989年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所、富士通総研等の研究員を歴任。2016~2017年総務省統計局「住宅・土地統計調査に関する研究会」メンバー。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書に、『世界の空き家対策』(編著、学芸出版社、2018年)、『捨てられる土地と家』(ウェッジ、2018年)、『縮小まちづくり』(時事通信社、2018年)、『空き家対策の実務』(共編著、有斐閣、2016年)、『限界マンション』(日本経済新聞出版社、2015年)、『空き家急増の真実』(日本経済新聞出版社、2012年)など。
米山秀隆オフィシャルサイト

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