住民の新陳代謝を促す仕組み
90年代からは少子高齢化を見据えたさまざまな仕掛けを構想し、子育て支援として認可保育園、認可外保育所、学童保育所などを設けた。高齢者施設としては、98年に特別養護老人ホームを誘致、05年には独自に社会福祉法人を設立し、07年に認知症グループホームの真ん中部分に学童保育を配置する幼老一体型の施設をつくった。有料老人ホームも運営し、「ゆりかごから墓場まで」対応する態勢を整えた。
住民の循環、新陳代謝を積極的に促すための仕掛けとしては、05年に「ハッピーサークルシステム」という仕組みを設けた。これは、ユーカリが丘のなかで住み替えてもらうシステムで、例えば、高齢者が戸建てからマンションや高齢者向け施設に移る際、査定額の100%で買い取り、買い取った物件はリフォームして新築価格の7割で再販売するというものである。最近では、年間200戸の販売のうち、3割近くはハッピーサークルシステムを使って、ユーカリが丘で転居するようになっている。
これにより、ユーカリが丘の新築には手は届かないが、中古のリノベーション物件を購入して若い世代が入ってくるというサイクルも出てきた。今後、10~20年のうちにすべての開発を終えるのをにらみ、リフォームや買い取りなどのストックビジネスに軸足を移していく考えである。
このようにユーカリが丘では、まちの成長管理を行い、住民の新陳代謝や建物の再利用を進めていくことでまちを持続させ、事業もまた永続させていくという理念を実践してきた。ユーカリが丘は計画245 ha、8,400戸、人口3万人でスタートし、現在は7,300世帯、1万8000人ほどのまちに成長している。
まちの再生への応用
ユーカリが丘の場合、当初から成長管理の考え方に基づいて開発したが、途中からこの仕組みを取り入れることも可能である。たとえば、電鉄会社のなかには、東急電鉄のように、駅近にシニア層を受け入れるマンションを造り、空いた戸建て持ち家をリノベーションして若年層に回す試みを行ったところもある。電鉄会社にとっては、沿線住民の新陳代謝を図らなければ、空き家増加で地域の価値が損われるばかりか、鉄道に乗る人も減り、事業継続が困難になっていくと考えられるからである。
自治体もこの考え方を、まちを小さくたたむコンパクトシティ政策とリンクさせていけば、取り入れることが可能である。現在、多くの自治体では、高度成長期以降、広げすぎた市街地を縮減する必要に迫られている。インフラや公共施設の更新は、広げ過ぎた市街地全域で行うことは財政的に困難である。
また、車を使わなければ暮らせないまちは、高齢者にとって不便である。市街地をコンパクト化して再開発する過程で、高齢者向け住宅を造るなどして高齢者の転居を促し、空いた戸建て持ち家はリノベーションして、若年層が安く購入したり借りたりできるようにすれば、住民の新陳代謝を起こすことができる。
まちを広げる一方だった時代は終わり、住民の新陳代謝を促し、まちを将来にわたって持続していく仕組みの構築が求められている。
(文=米山秀隆/富士通総研主席研究員)
【参考文献】
米山秀隆(2017)「人口減少下の地域の持続性─エリアマネジメントによる再生─」『富士通総研研究レポート』No.438