トランプ米大統領は16日のツイッターで、ロシアの米大統領選干渉疑惑をめぐる司法妨害の疑いで、自らがモラー特別検察官による捜査の対象になっていることを認め、「魔女狩りだ」と強く反発したが、これはトランプ大統領が弾劾されることに危機感を深めているためだ。実際、政治の中心であるワシントンや、経済の中心のウォール街ではトランプ大統領辞任、マイク・ペンス副大統領の大統領昇格の可能性が取りざたされ始めている。
米メディアによると、モラー氏は精鋭の弁護士13人を集め、トランプ氏がコミー元FBI長官に対し、フリン前大統領補佐官に関するロシア疑惑での捜査中止を求めるなど司法妨害があったかどうかの捜査を開始。このため、トランプ大統領の司法妨害が立証される可能性も否定できないようだ。
ロイター通信によると、ワシントンやウォール街ではすでに、トランプ大統領がホワイトハウスを追われ、ペンス氏が大統領に就任した場合、アメリカはどう変わるか――とのシミュレーションがなされ始めているという。
ペンス氏は前インディアナ州知事で、米下院議員を12年間務めたベテランであり、筋金入りの保守派の経歴を持つ。このため、トランプ大統領が弾劾されれば、次の大統領はペンス氏しか選択肢がないのだが、それでもトランプ大統領の支持者や他の共和党支持者も、ペンス大統領の誕生には拍手を送ることは間違いない。
また、弁護士でもあるペンス氏の場合、話し合いに臨む態度が洗練されているほか、トランプ大統領のようにツイッターで突然、自分の意見を表明するという奇抜さもないことから、政治的信条が異なる投資家ともうまく付き合えることもウォール街の支持が高い理由のひとつになるだろう。
トランプ批判が強まる要因
さらに、ペンス氏が公開した資産はトランプ大統領とは比べものにならないくらい少ないため、ペンス氏はトランプ大統領が直面したような問題は抱えずに済むことも大きい。
ワシントン・ポスト紙など米主要メディアが17日、トランプ大統領が米政府倫理局に提出した最新の財務状況報告書の内容として伝えたところでは、トランプ氏が保有する不動産などの資産は少なくとも14億ドル(約1550億円)相当に上り、今春までの1年数カ月の間に約5億9400万ドルの収入があったことがわかったからだ。これらの巨額な財産も、トランプ批判が強まる要因になる可能性がある。
アメリカン大学の歴史学教授で、1984年以降、9回の大統領選の結果予測をすべて的中させたアラン・リヒトマン氏は近著『The Case for Impeachment(弾劾のシナリオ)』で、「トランプ大統領は4年の任期を全うできない」として、トランプ大統領辞任を予測している。同書はトランプ大統領がFBI長官を解任する前に書かれており、ロシアの米大統領選干渉疑惑をめぐるFBI長官に対するトランプ大統領の司法妨害については触れていないだけに、新たな問題が発覚したことで、トランプ大統領弾劾の決定打になる可能性も出ている。
(文=相馬勝/ジャーナリスト)