新型コロナウイルス感染症の猛威は国政の場にも強く影響を与え始めている。27日午後、立憲民主党の羽田雄一郎元国土交通相(長野選挙区)が東京都内で急逝した。53歳だった。同党関係者によると、羽田数日前に体調不良を訴え、27日午後、PCR検査を受ける予定だったが、都内の病院に搬送される途中に容体が急変したのだという。
自民党の竹本直一前IT担当大臣が新型コロナウイルスに感染したことが24日に判明したばかりだった。羽田氏の死因は明らかではないが、国会議員の感染は竹本氏で5人目に上っているほか、秘書や周辺の関係者の感染確認はそれ以上の数に及んでいる。複数の報道では、コロナ禍でも変わらない議員らによる奔放な会食の問題が指摘されているが、国会や議員会館の感染症対策の“ザルさ”も気にかかる。
サーモグラフィーは「一般人向け」、議員は素通り
コロナ禍が深刻化の兆しを見せていた今年3月1日、参議院は国会本会議場や議員会館の一般用入り口計3カ所にサーモグラフィーを設置した。議員への面会や本会議の傍聴で来館する一般来館者の体温を計測し、37.5度以上の発熱があると入館できないようにした。サーモグラフィー自体は2009年に新型インフルエンザが流行した際に購入されたものだったが、実際の使用は今回が初めてのことだったという。
参議院事務局の広報担当者は「12月28日時点で、サーモグラフィーは3月に設置した3カ所のみです」と説明する。いずれもあくまで「一般来館者用」の措置で、議員本人や秘書、国会まわりの記者らが使用する関係者用の出入り口(車止めや地下)にはサーモグラフィーは設置されていないのだという。こうした状況に対し、今年10月、参議院会館を訪れていた東京都内の感染症専門医は次のように指摘する。
「コロナ対応拠点病院のように徹底することは難しいのかもしれませんが、国家の重要施設なわけですから、感染症対策はちゃんとやってしかるべきだとは思います。
一般来館者は決められた入り口から手荷物検査を受け、受付を通ったうえで、サーモグラフィーを通り入館。その後、会館内で用が済んだら決められた出口から出る。余計なところに行かず、接触しないように徹底されてはいます。しかし本来であれば、一般来館者のみならず、国会や議員会館内で活発に活動する議員、秘書、記者すべてが同じルールに従っていなければ意味はありません。
実際に行ってみて、これはまずいなとは思いました。議員や秘書、記者などいわゆる『関係者』の来館、退館の導線が一定になっていない。サーモグラフィーを通らなくてもいい仕組みになっているのはもちろん、どこから入って、どこから出てもいい。仮に国会や会館内でクラスターが発生した場合、保健所などは感染者がどのような導線で移動したのかを割り出し、濃厚接触者を特定したり、手すりなどを重点的に消毒したりする必要性がでてくるわけですが、これでは不可能です。
また、せっかく設置したサーモグラフィーも完全に外部向けで、内部的には意味をなしていない。自覚症状がない場合はやむを得ないとしても、少なくとも発熱症状がある人がウイルスを拡散するのを予防する効果はあるわけです。現状では、発熱症状がある議員や秘書、記者らが入館しても『自己申告』以外に入館を拒否することができません。かなり危ういと思います」
議員も国会付きの記者も特権を振りかざしている場合ではなくなっている。行動変容が求められているのは庶民だけではないこと、自覚してほしい。
(文=編集部)