新型コロナウイルスの感染が拡大しているなか、生活困窮者やホームレスは年末年始を乗り越えられるか否かとの危機に直面している。
もともとこの時期は、年末までに雇止めになるなど仕事を失うケースも多く、困窮者はさらにその度合いを深める。今年は新型コロナウイルスが、この状況に拍車をかけるのは必至だ。
東京・池袋で炊き出しを続けている特定非営利活動法人「TENOHASI(てのはし)」の清野(せいの)賢司代表理事によると、食事を求めてやってくる人が、昨年は1回の炊き出しで平均166人だったのに対し、今年11月末の炊き出しでは292人に上った。
「これが12月末にどうなるか、恐れおののいている」(清野氏)
こうした状況を危惧して11月30日、ホームレスを支援する団体が東京都に緊急要望書を提出した。呼びかけは、市民によるホームレス問題の調査や参加型まちづくりのプロジェクトを実施してきた北畠拓也氏。この要望書には支援10団体が名を連ねた。
東京都は12月21日から1カ月間、ビジネスホテルなど1日当たり1000室を一時的に確保する費用に5億円を充当するとしている。この背景には、コロナ感染第一波の春に、ビジネスホテルなどを一時宿泊施設として確保するよう各団体が東京都に要請し、実行されたことがある。そのときの教訓を踏まえて、さらに有効な対策が求められている。呼びかけ人の北畠氏が同日の記者会見で、次のように要望書の趣旨を説明した。
「要望のポイントは2つ。ひとつ目は、相談窓口の充実。住居確保が困難な人、各種給付金が期限を迎える人、倒産失業、雇止めなどが年末に急増します。彼らの相談窓口の充実が急務です。役所が休みになる年末年始の閉庁期間に、各地に窓口を設けることです。
ふたつ目は、春に実施されたビジネスホテルなど一時宿泊施設の政策の結果を踏まえての対応です」
コロナ感染第一波の後半、ホームレス支援団体の要請を受けて東京都がビジネスホテルなどを用意。4月以降、約1000人が利用した。しかし、期間を過ぎた後をどうするかが緊急の課題になっている。
4月以降に実施されたビジネスホテル提供策の結果を総合すると、ホテルを利用する約1000人のうち、およそ6割が一時住宅への移行が可能だが、最大で4カ月という期限付きである。安定した住居に移れた人は1割強、インターネットカフェや宿泊所などの不安定な住環境に戻らざるを得なかった人は1割強。
春から初夏にかけてビジネスホテルに一時滞在した1000人の仕事と寝場所を確保していれば、今回新たに出るホームレスだけに対応すればよかった。しかし、前回のホテル利用者の一部しか安定した住環境を得られていないので、ダブルで対応しなければならないのだ。
また、一時滞在場所(ビジネスホテル)に入れても、泊まれるだけでお金の支給もなく食事もなく、当然持ち金もないので、ホテルから炊き出しをしている公園までやってきた人も実際にいた。
こうした前回の宿泊施設提供の経験を、ぜひとも生かしてもらいたい。
広報がなければ、困窮者は情報にアクセスできない
また、対策を立てたとしても、支援があることを当事者たちに伝えるのは非常に難しい。 記者会見に参加した前出の清野氏は、次のような体験を語った。
「8月に相談を受けたときのことです。日雇いの仕事をして路上で過ごしていた30歳すぎくらいの人がいました。その人に、『都が用意したビジネスホテルに行かなかったのか』とたずねると、『えっ? それなんですか?』と言うんです。Wi-Fiがあるところに行けばネットがつながるのですが、ネットが使用できるところではとにかく職を探していたそうです。
そうして一番苦しい4~7月を、たまに得られる仕事で食いつなぎ、池袋周辺で野宿していたそうです。本当に困窮している方は情報を得られない。相当な熱意を込めた広報をしないと必要な人に支援が届かない。それをお願いしたいです」
今回の要望書に名を連ねたほかの団体への相談も、前年に比べて明らかに増加している。これがコロナ禍の年末の状況だ。とにかく、ビジネスホテルなど一時滞在施設が用意されていることを知らせる必要がある。
ネットカフェにチラシを置いたり、SNS、テレビ、ラジオ、ウェブサイトなどで熱意を込めた広報が東京都に求められている。
(文=林克明/ジャーナリスト)
●コロナ禍で住まいを失う人の相談窓口(随時更新)
https://note.com/ddsharinnouta/n/n83863ea29199