中国、チベット弾圧を苛烈化、婦人を拷問し虐殺…ダライ・ラマ、化身認定制度継続を検討
「中国共産党の習近平指導部のチベットへの弾圧は苛烈を極めています。チベットも情勢についても、中国チベット自治区の情報を海外に漏らしたとして、つい最近もチベット自治区で牧畜業を営むチベット婦人がインドの親戚に送金しただけで2カ月間も留置所に拘束され、連日の激しい拷問の末、殺されてしまったのです」
こう語るのは10月下旬にダライ・ラマ法王日本代表部の新代表として着任したばかりのアリヤ・ツェワン・ギャルポ氏(55)だ。アリヤ氏は10月24日、代表を引き継ぎ、28日には安倍晋三前首相を表敬訪問するなど、着任早々活発な活動を展開している。日本には2005年から11年まで、同代表部の事務局長を務めており、インドのデリー大学で日本学修士課程、チベット学の博士課程で学び、成田山新勝寺にも留学僧として3年間滞在するなど日本通だ。
アリヤ氏はインド北東部のヒマチャルプラデシュ州ダラムサラに本部を置くチベット中央政権(CTA)では情報国際省次官補や情報局長を務めるなど、中国大陸のチベット情勢にも精通している。冒頭のチベット人婦人の不当な拘束による不幸な事件の情報も、独自のルートで得たものだ。とはいえ、アリヤ氏が語るように、情報統制やチベット文化の破壊などの面で、習近平政権が発足後、中国での締め付けは年々厳しくなるばかりだ。
アリヤ氏は「習近平政権の弾圧はチベットの仏像や寺院などを根こそぎ破壊し、チベット仏教の僧侶ら多数のチベット人を死に追いやった文化大革命(1966~76年)時代より激しいといわれるほどです」と指摘する。
チベット自治区などチベット人居住区では魔除けや祈りに用いる「ルンタ」と呼ばれる色とりどりの旗よりも、中国の国旗や共産党の宣伝用の旗や看板のほうが多いくらいだという。また、チベット仏教寺院はすべて共産党幹部が管理しており、仏教僧はお経を唱えるのも党幹部の許可を得なければならないほどだ。子供も寺院に連れていくことは禁止されているなど、信教の自由は制限されている。
さらに、チベット文字やチベット語の使用も禁止されるなど、「チベット文化のジェノサイド(虐殺)」と言っても過言ではないという。
ダライ・ラマ法王「私が先に逝くか。共産党が先に逝くか」
しかし、アリヤ氏はこう指摘する。
「このような弾圧はいつまでも続くはずはない。(チベット仏教の最高指導者)ダライ・ラマ法王(14世)は『私が先に逝くか。あるいは、共産党が先に逝くか。どちらが先に逝くのか、わからないよ』とおっしゃっている。この言葉通り、中国の民衆が習近平の圧政にいつまで耐えられるのか。いずれ民衆の積もり積もった不満が爆発する時が来るのは間違いない。早晩、それが現実のものになるに違いない。このようななかで、いま中国が虎視眈々と狙っているのは、ダライ・ラマ14世の後継者である15世を中国政府の手によって指名しようということだ」
アリヤ氏によれば、これについてもダライ・ラマ法王は次のように明確に否定しているという。
「彼らは私(ダライ・ラマ14世)の死を待ち望み、彼らの思い通りにダライ・ラマ15世を認定しようしています。最近の法律や関係省令の公布からも、チベット人やチベット仏教徒をはじめとする国際社会を欺くための詳細な戦略が彼らにあることは明らかです。そこで、私には仏法と衆生を守る責任があり、このような悪しき政策が現実化してしまう前に未然に防ぐことが急務なのです。
私は、私が90歳くらいになったら、チベット仏教の大ラマ、民間のチベット人、その他チベット仏教に関わる人たちと相談して、ダライ・ラマの化身認定制度を継続する必要があるかどうか再度検討したいと考えています。それをもとに、継続の有無を決めるのです」
ダライ・ラマ14世は現在、85歳。5年後の2025年7月の誕生日以降、後継問題について、決着をつけることになる。14世自身は「私は113歳まで生きる」と最近、明言したという。「113歳」といえば、いまから28年後の2048年となる。
前述の通り、14世は最近、「私が先に逝くか。あるいは、共産党が先に逝くか。どちらが先に逝くか、わからないよ」と語ったというが、ダライ・ラマ14世と中国共産党との闘いは、14世自身の寿命との闘いといってもよいかもしれない。
(取材・文=相馬勝/ジャーナリスト)