新型コロナウイルス感染拡大は人々の意識や行動に大きな影響を与え、購買行動も大きく変容し、小売業もその対応に迫られることになった。オール日本スーパーマーケット協会や日本ショッピングセンター協会など業界12団体が、感染予防のガイドラインを設けたり、個別の企業でも独自な取り組みが行われている。
12月4日にオープンした「イオンスタイル上尾」(埼玉県上尾市)では、最新技術を使ったさまざまな感染防止策が行われ、ニューノーマルに対応し、リアルとデジタルを融合した新しいショッピング体験も提供している。
「イオンネットスーパー」で商品を店舗で受け取れるサービス「ピックアップ!」や、店舗外に設置した冷蔵・冷凍・常温に対応したロッカーで完全非接触で受け取りができる「ロッカーピックアップ!」を新たに導入した。さらに、駐車場に車に乗ったまま商品を受け取ることができるピックアップレーンを設けた。利用客はインターホンで連絡し商品を運んでもらう。
売場内のデジタルの総合窓口では専任の案内係を配置。ネットで購入した商品の受け渡しのほかに、デジタルショッピングの提案や説明を行い、アプリの登録をサポートする。また、ファッションやベビー・キッズ、寝具や家電・インテリアなど、イオンのオンラインショップ「イオンスタイルオンライン」で、注文・決済した商品を店舗で受け取れる「店舗受取りサービス」を展開している。
スマホのアプリによるサービスも行っている。「モバイルオーダー」は、スマホで事前に総菜や弁当を注文・決済し、来店時にできたての商品をスムーズに受け取れるサービス。店舗でのショッピングでは、店舗入口付近に設置する貸出用の専用スマホで、客自身が商品のバーコードをスキャンしながら買い物し、専用端末でお支払いする「レジゴー」を導入した。精算時に従業員と接触せずに済み、レジに並ぶ必要もなくなる。
こうしたサービスで非対面・非接触で利便性を向上しながら、新たな感染拡大防止策もスタートした。買い物カゴの自動除菌装置「ジョキンザウルス」を店頭に設置し、積み重ねた買い物カゴを入れると1個ずつ自動で持ち上げ、紫外線で除菌する。従来は、使用済みのカゴを従業員が1個ずつアルコールで拭いていたが、作業時間を約4分の1に削減でき、今後開発中のショッピングカート用も導入していく計画だ。
ちなみにイトーヨーカ堂では、光触媒コーティングによる、抗菌・抗ウイルス加工を施したショッピングカートや買い物カゴを導入している。新店から新たな対策も開始した。10月30日オープンした「新田店」(埼玉県草加市)で、検温、消毒、手洗いがセルフでできる「サニテーションカウンター」を設けた。非接触検温システムを導入、自動消毒スタンドを設置し、来店客自身が使用するセルフ方式。11月12日に出店した「朝霞店」(埼玉県朝霞市)では「安心カウンター」と名付けてよりわかりやすくした。
抗ウイルス建材や抗菌コーティングも導入
ショッピングセンターにおいても、新たな感染防止策が取り入れられている。11月21日に開業した「イオンタウンふじみ野」(埼玉県ふじみ野市)では、カルテックの光触媒方式除菌機をフードコートや授乳室などを50台設置した。ダイキン工業が開発した、ウイルスを吸着するチタンアパタイトフィルターをショッピングセンターの共用部のエアコン全105台へ設置、菌やウイルスを吸着・抑制する。
接触感染防止のため、テーブルやカウンターには、抗ウイルス建材を採用し、ドアノブや壁面には、ウイルスの繁殖を抑制する空気触媒コーティング、館内のすべてのエスカレーター手すりベルトには、EBC-500抗菌コーティングを施した。さらに混雑対策として今回初めてリリースした「イオンタウンアプリ」にて、混雑状況を知らせ、来館カウントシステムにより、常時在館人数を確認し状況により入場制限も実施する。商業施設が運営するアプリ内の機能では初めて、専門店の商品を事前に注文・購入できるモバイルオーダー機能も装備した。
「イオンモール上尾」(埼玉県上尾市)では、スタッフとの接触を少なくするため、案内ロボットを導入した。
バーチャルの活用
ネットの攻勢でリアル店舗はその存在意義が改めて問われている。新型コロナでリアルの強みのひとつであった接客サービスは感染防止という点から経営される傾向にある。そこで、バーチャルで代替する動きも活発化してきた。
化粧品は美容部員によるコンサルティング販売が行われ、メイクなどを施して出来栄えを確かめられるが、バーチャルでメイク体験できる機器の導入も進んでいる。イオンリテールのヘルス&ビューティー「グラムビューティーク」では、コーセーの「ユーカムメイク」を「イオンスタイル上尾」の売場から導入を開始、リアルなメイクをしたような状態がバーチャルで簡単に再現できる。
コロナの感染が収まっても、こうした新しいショッピング体験や感染防止策はニュースタンダードとなり、定着していくことが予想される。安全・安心を担保する施策はコスト増となるが、顧客の信頼を得、従業員の健康を守ることにもつながり、今後も新たな取り組みや展開が続々登場すると思われる。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)