近年、ふるさと納税に対する返礼品は豪華になる一方だ。税収減で苦しむ自治体は、ふるさと納税を利用して税収を増やそうと躍起になっている。千葉県大多喜町や静岡県焼津市などは、地域限定の買物券や家電品などを返礼品として贈ることで、各地から税金をかき集めた。
ふるさと納税は寄付文化を根付かせる目的で創始されたが、いまや節税対策としての趣を強くしている。そうした状況を憂慮して、国も対策に乗り出した。今年4月、高市早苗総務大臣(当時)は過熱するふるさと納税の返礼合戦にブレーキをかけるべく、各地の地方自治体にふるさと納税の返礼品はおおむね寄付額の30%を上限とするように通達した。多くの市町村は、お上である総務省に目を付けられることを恐れて通達を受け入れた。
しかし、ある県庁所在地の市職員は「ふるさと納税が返礼品合戦になっていることは事実ですが、それでもふるさと納税競争から降りるわけにはいきません」と断言する。東京圏や大阪圏といった大都市圏を除けば、県庁所在地でも少子高齢化に苦しんでいる。社会保障費は増加する一方なのに人口減少で税収は右肩下がり。大企業による法人税収は見込めない。住民税も奮わない、だから、ふるさと納税にすがるしかない。県庁所在地でも、かなり苦しい状況にまで追い込まれている。
一方、東京・大阪の自治体では待機児童対策や高齢者問題などは急務となっており、それらの財源が必要になっている。東京23区では、ふるさと納税によって約200億円の税収が地方に奪われた。地方自治体にとって、税収減は死活問題だ。ふるさと納税によって税金を奪われる東京・大阪などの自治体も黙っていない。
東京都文京区は、困窮家庭に食料などを宅配する「こども宅食事業」に取り組むことを発表した。この財源は、ふるさと納税で賄う。同事業はNPOなどを中心に取り組まれている貧困対策だが、行政がふるさと納税を財源にして取り組むのは初のケース。それだけに、文京区のふるさと納税は注目を浴びた。「これまで、ふるさと納税は返礼品の豪華さを競うばかりでしたが、新たな潮流を生むきっかけになるかもしれない」(地方自治体関係者)といった具合に、過熱する返礼品競争で疲弊しつつある自治体関係者の間でも話題になった。