通達破りの兆候
その一方、冷ややかな声も聞かれる。というのも、こども宅食事業に充てられる文京区のふるさと納税には、納税者に対しての返礼品が用意されていないのだ。熊本地震や九州の大水害など、天災で被害を出した自治体のふるさと納税額が一時的に増えることはこれまでにもあった。そうした災害時のケースを除けば、返礼品を用意しなければ、ふるさと納税は集まらない。これは、自治体関係者の間では半ば常識とされている。
それを如実に示したのが、9月2、3日に東京ビッグサイトで開催された「ふるさとチョイス ふるさと納税大感謝祭」だった。35都道府県の106市区町村が参加した同イベントでは、北海道・東北・四国・九州といったところの市町村が多く顔を揃えた。特産品の牛肉や海産物、日本酒などが振る舞われた市町村のブースでは長蛇の行列ができていた一方、ふるさと納税のパンフレットを配布するだけの市町村は見向きもされていなかった。イベントに出展した、ある関東の自治体担当者は嘆く。
「わが町は、関東圏では返礼品に力を入れている珍しい自治体です。それでも特産品が豊富な北海道・東北や九州の自治体と競ったら勝ち目はありません。そもそも、ふるさと納税を考えている人たちは、寄付で社会的貢献をするとは考えていないでしょう。あくまで所得税や住民税の控除、返礼品が目当てです。ふるさと納税を集めるには、豪華な返礼品を揃えることが必要条件です」
過熱したふるさと納税の返礼品競争は、高市大臣の通達によって鳴りを潜めた。しかし、自治体関係者からは「通達は、法的根拠がないので長続きはしない」という声も聞かれる。すでに、その兆候は現れ始めている。総務省は「ふるさと納税の返礼品は換金性の高い品はNG」とし、群馬県草津町が返礼品として贈っている金券に難色を示していた。草津町は総務省の通達に反発した急先鋒の自治体として知られるが、高市通達後も金券の返礼品を継続。その強硬な姿勢に、野田聖子総務大臣も折れるかたちになった。
草津町が金券で多額なふるさと納税を集めるような事態になれば、ほかの地方自治体も我先にと高市通達を無視して豪華な返礼品を用意するだろう。地方自治体が守ってきた高市通達という堰は、もはや決壊寸前だ。ふるさと納税の返礼品合戦が再燃する日は近い。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)